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データに基づいた新型コロナ対応へ ー流行は本当に起きているのか?全数把握と医療逼迫、第8波をめぐる問題点ー
画像提供:Getty Images

データに基づいた新型コロナ対応へ ー流行は本当に起きているのか?全数把握と医療逼迫、第8波をめぐる問題点ー

December 2, 2022

R-2022-078

1.集団免疫レベルが意味すること
2.流行は本当に起きているのか?~全数把握とILIサーベイランス~
3.急性期病床数トップの日本で、なぜ医療崩壊が起きたのか?
4.第8波を乗り切るために、行動制限は必要か?
5.ウィズコロナの医療体制へ

新型コロナ感染者増の報道が行き交う中、2022年12月2日、病床や外来医療の確保の強化などを盛り込み、感染症法(※)等が改正されました。ですが医療逼迫の解消には大きな課題が残ったままです。
我々はデータに基づいた、適切な新型コロナへの対応が出来ているのでしょうか?
集団免疫レベルが意味する事。感染者数の把握をめぐる問題点。医療逼迫が起きる理由。データを通じて、浮かび上がる課題があります。日本にとって今、必要な事について、國谷紀良プログラムメンバー、徳田安春主席研究員、谷口清州研究主幹、渋谷健司研究主幹が議論しました。

(※)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

1.集団免疫レベルが意味すること

國谷: 11月27日現在、国内の新型コロナウイルス感染症の感染報告者数は2400万人を超えています[1]。私たちの研究チームは、今後の流行動態を予測するため、SEIRモデルと呼ばれる数理モデルで、国内の主要都道府県の集団免疫レベルの推計を行い、Review[2]で公表しました。

第6波、第7波で集団免疫レベルも一時的に増加しましたが、現在は減少傾向にあります。特にワクチンに由来する免疫の減少傾向が著しいために、追加接種を、特に感染を経験しない人を中心に進めることが、今後の流行に備える上で重要であると考えられます[3]

渋谷:ワクチンと自然免疫による集団免疫レベルが低下すると流行の波が起きます。今後はこの繰り返し、ワクチンと自然感染を繰り返しながらウィズコロナでやっていくしかないと思います。Reviewの推計は10月末に公表しましたが、大方、我々の予想したパターンで第8波、感染の高まりが戻ってきていると思います。 

2.流行は本当に起きているのか?~全数把握とILIサーベイランス~

谷口:厚生労働省発表の国内発生動向[4]でも、感染者は明らかに増加しています。ただこのカウント方法の問題点について、少しお話させてください。これは三重県における新規感染者数です。

三重県新型コロナウイルス感染症の発生状況 https://www.pref.mie.lg.jp/YAKUMUS/HP/m0068000066_00002.htm

このグラフの数も医療機関から届出があった数です。ただ、自分が何らかの症状があると自覚しなければ病院には行きませんから当然診断もされず、報告されません。アメリカでコロナと診断された人の6割は、自分がコロナに感染しているという自覚がなかったというデータがあります[5]。病院に行ってコロナと診断されなければ、当然届出数には含まれず、軽症例が増加するなか、日本が今後も、届出数だけで流行の評価をすることは難しいと思います。

こういう場合、世界の標準はILIサーベイランスといい、発熱と急性上気道炎(Influenza-Like-Illness: ILI, あるいはAcute Respiratory Infection: ARI)の症状で受診する患者数をカウントし、その中で、コロナ、インフルエンザの陽性率を見ます。今年の冬はインフルエンザが大流行すると皆さん仰いますよね。下はオーストラリアの5年分のインフルエンザの届出数データです。今年が最も流行が大きかったと思うかもしれません。

Notifications of laboratory-confirmed influenza, Australia, 01 January 2017 to 09 October 2022,
 AUSTRALIAN INFLUENZA SURVEILLANCE REPORT, https://www.health.gov.au/resources/collections/aisr

けれどオーストラリアでは並行して、先ほど申し上げた、ILIサーベイランスをやっています。ILIサーベイランスのデータでは、過去の5年間とインフルエンザ様症状、つまり発熱と上気道症状をきたす患者数はほとんど変わっていません。むしろ2017年の方がたくさんの患者さんがいたわけです。

          Unweighted rate of ILI reported from ASPREN sentinel GP surveillance systems, Australia
         AUSTRALIAN INFLUENZA SURVEILLANCE REPORT, https://www.health.gov.au/resources/collections/aisr

 陽性率でみるとオーストラリアのこの冬のインフルエンザの陽性率は15%、過去のオーストラリアのインフルエンザの流行を見ると、陽性率がおおむね30%を超えており、過去に比べて、今年のオーストラリアのインフルエンザの流行は大きくなかったということが言えるわけで、実際にオーストラリア政府はこれらのデータから今シーズンのインフルエンザのインパクトは軽度から中等度までだったとしています。

WHO Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS) https://app.powerbi.com/view?r=eyJrIjoiYWU4YjUyN2YtMDBkOC00MGI1LTlhN2UtZGE5NThjY2E1ZThhIiwidCI6ImY2MTBjMGI3LWJkMjQtNGIzOS04MTBiLTNkYzI4MGFmYjU5MCIsImMiOjh9

つまり軽症例、病院に行かない人が増えつつある今、今後の日本の流行を、届出数だけで評価するのは、適切ではないということです。下は三重県のILIサーベイランスです。


第44週のインフルエンザ陽性率は0.63%です。これを見ると、三重県内で熱が出てもインフルエンザがあるリスクは非常に低いということになりますし、一方、同じ患者さんを分母としてコロナの検査をすると陽性率が24.38%です。つまり三重県で熱が出て、風邪の症状がある人がインフルエンザである事前確率が0.63%であり、コロナである事前確率は25%ぐらいだということです。こういうデータがあれば一般の皆様も流行状況がイメージしやすいですし、医師も発熱で来院した患者さんのコロナのリスクがどのぐらいか予測できます。実際の流行状況、医療逼迫を乗り切るうえでは、症状がある人の数という分母をみて、そのなかの陽性者である分子の数字を見て、実際の流行状況を考えることが大事です。

渋谷:國谷先生の推計では東京で40%ほどの方が自然感染しており、その状況で医療機関経由での全数把握ができるはずがないと思います。やはり医療機関での定点サーベイランスが非常に大事になります。一方、医療逼迫で、きちんと診療できる状況でなければ、コロナか、インフルエンザか、違う病気か、患者さんの診断もできず、サーベイランスもできない。徳田先生、医療逼迫について実際どうしたらいいのでしょうか?

3.急性期病床数トップの日本で、なぜ医療崩壊が起きたのか?

徳田:はい。これは研修医の数と救急車入院受け入れ数の関係を見た図です。横軸が日本の100ベッド当たりの研修医の医師数です。縦軸は100ベッド当たりの救急車入院受け入れ数、その平均値になっています。大学病院以外の市中病院では明らかに、研修医の数が多いほど、救急車で搬送された患者さんの入院を受け入れることができたと言えると思います。

徳田主席研究員作成

日本の急性期病床数は約90万あるのになぜ医療崩壊するのか、よく議論の焦点になっています。緊急性がある患者さんの入院受け入れが、去年8月のデータでは90万床の中で4万人、約5%でした。この急性期の受け入れ率について、アメリカでは20%以上を受け入れているのがデータとして出ていますが、日本がどうしてこんなに低い数字かというと、病床はあっても人がいないからです。

日本の医療崩壊による受け入れ困難の理由は、医療者のマンパワーです。日本の急性期病床数は先進国で群を抜いて一番ですが、スタッフ数が足りていません。ここで何故研修医が重要なファクターになるかというと、スキルに関して、患者さんに行うケアは、デルタまでの呼吸不全などのICU(集中治療室)での重症ケアとは異なり、オミクロン以降は部分免疫もあるのでプライマリ・ケアで対応可能なケースが多いです。

基礎疾患がある高齢者が入院した場合も、ICUでECMOを装着し24時間体制で治療を行うというより、総合診療のスキルの範疇で全身管理を行うケースが多い。研修医は卒業したての人たちですがマンパワーはあります。そして研修の過程で複数の診療科を回っていて、自然と全身管理の経験を積んでいるわけです。医師数をいきなり数千人増やすことはできませんから、医療逼迫を乗り切るためには、研修医がカギとなるわけです。

ウィズコロナになりつつある今、いかに質と量の双方を考えながら医療体制を再構築するかが重要だと思います。今いる医師、看護師さん、コメディカルの方々、皆のタスクを、コロナ診療できるタスクに体制を変えていき、同時に医師数を増やしていく戦略が望まれます。そして地域医療支援病院や大学、自治体病院だけでではなく、多くの民間病院、中小病院もふくめ、患者さんの受け入れができる体制を構築して、医療崩壊を起きないよう、皆で努力していくことが必要になると思います。

谷口:医療逼迫について、日本はすぐにベッド数で考えますが、徳田先生のお話の通り、スタッフ数なんですね。ベッド数ではなくスタッフが今どういう状況にあるかを考えて、医療逼迫を考えないといけない。医療逼迫すれば、本来助かるはずの命が助からない恐れがあるわけです。これを考えれば、医療逼迫で救急車が受けられないっていう状況になれば、経済を回すことも重要なのですが、皆の命を守るために、やはり感染者数を減らそう。家にいて感染を広げないようにしよう。感染したらすぐに病院に行って重症化しないようにしようということになります。行動制限に踏み切るかは、エビデンスに基づいた包括的な判断が求められると思います。

渋谷:医療逼迫解消について、徳田先生はReview「医療逼迫の予防には医療従事者不足を解決せよ」[6]で詳細を説明くださっていますね。

4.第8波を乗り切るために、行動制限は必要か?

渋谷:谷口先生、三重のデータから第8波の見通しについて聞いてもよいですか。

谷口:インフルエンザはある程度出てくると思いますが、皆さん感染症対策をしっかり行っているので、大きな流行にはならないと考えています。一方、コロナについて日本は、欧米と違って、まだ自然感染が少なくて、いわゆるハイブリッド免疫を持っている方が十分ではありません。接触が増えれば、感染者数がかなり増加してくるでしょう。このような状況であれば当然インフルエンザも増加するでしょう。いかにワクチンで免疫レベルを上げていくかとの勝負になるだろうと思います。一番問題なのは、軽症例が多いので、病院に行かない方が増えてくると、日本全国で、届出数だけで流行を見ていると、医療逼迫につながりつつある流行なのか、はっきり評価できない恐れがでてくるということです。

渋谷:行動制限が本当に必要なのかに関して、どうでしょう?

谷口:はい。感染者数は、報道などを見て、多くの人が病院に行って検査をすれば、急激に数が増加する可能性もありえます。軽症の人も全部計上されるわけで、果たしてそれで実際に経済を止めなければならないのか。という疑問が出るのは当然です。一方、医療逼迫を防がないと、重症例に対応できなくなります。

オミクロンになってから、重症化率は減少してきていますが、やはり一定のハイリスクの方は重症化します。特に世界中の傾向として、10代以下の子どもの病気になりつつあります。小さなお子さんは重症化のリスクが高いので、これまでの流行波とは違った形、つまり小児の重症例にも備えておく必要があります。基本的な個人個人の感染対策への意識と、いかに医療体制を整備できるか次第だと思います。それができなければ、医療逼迫を防ぐためにある程度の行動制限をせざるをえないと思います。

渋谷:國谷先生の予測モデルでは、沖縄の集団免疫レベルは高いレベルを保っていましたね。

國谷:はい。東京や大阪のような都市部では、自然感染由来の免疫が多く、特に沖縄では自然感染由来の免疫が非常に高いという結果が出ています。一方で、北海道はワクチン由来の免疫が自然感染由来の免疫より多いという結果になりました。

11月8日現在までの感染報告数で考察すると、ワクチン由来の免疫が自然感染由来の免疫より多かった地域、北海道などは第8波が早めに来ています。一方で自然感染による免疫がワクチン由来の免疫より多い地域では、流行の波がくるのが遅いように思います。

渋谷:実際、沖縄はどういう状況ですか。

5.ウィズコロナの医療体制へ

徳田:沖縄で感染者数が11月の第2週頃から増えていますが、沖縄の感染者数は九州で一番少なくなっています。感染が蔓延していましたが、今(1111日時点)は人口あたりで一番少ないグループです。入院患者数は1111日の時点で12%ですね。コロナ病床数を分母にして、12%なので、余裕があります。でも問題はサージキャパシティ(感染拡大のピーク時にどの程度のケースの入院を受け入れられるかを指すもの)が圧迫された場合にどこまで耐えられるかです。たとえばパクスロビドという治療薬には入院抑制の効果があります。けれどハイリスク者にパクスロビドを5日以内に投与するには、プライマリ・ケアの医療体制をきちんと維持できないといけない。発熱外来が患者さんを受け入れられず、診察できないとなると、結局、治療薬が使えないということになります。

検査を充実させて、早期診断を行って、ハイリスク者には薬を早期投与して、入院をなるべく減らす。入院が必要なら、地域医療支援病院や特定機能病院のみでなく中小病院でも受け入れるような体制に、ガバナンスを変えていく。デルタまでとは状況が変わりつつあります。もちろん研修医と、内科呼吸器科だけ、感染症医だけが診るのではなく、総力戦で見るような体制にしないといけません。そして、連日検査など医療者に対する検査も充実させて、早く隔離解除できるようにする。流行に備えるためにはきめ細かい戦略が必要になると思います。

谷口:コロナ前の毎年の季節性インフルエンザの流行時は、一般的な疾患を診る医療機関のほとんどが発熱患者を診ていたわけです。それが今、一部の医療機関しか発熱患者を診ていなければ、発熱患者が行く医療機関が不足することは明らかです。すぐに受診できないということは、早期診断・早期治療ができないということです。徳田先生が仰ったように、特にコロナは早期診断・早期治療が、ハイリスクの方にとって重要です。発熱を診ない機関が多いと、受診・診断が遅れ重症化する、という悪循環になってしまいます。やはり地域の医療機関で発熱患者を診る、この体制を整備することが肝要と思います。今回の感染症法の改正では、民間の医療機関に対しては、協力を求める、というレベルにとどまったそうですが[7]

渋谷:オミクロン、非常に感染性が強くて、まさに多くの人が感染するっていう状況の中で今後、医療逼迫の可能性もあります。第7波では、プライマリ・ケアで対処できるはずのケースができなくて、多くの方に影響が出てしまった部分がありますが、今後に向けて、やっぱりワクチンと自然感染を繰り返して、ウィズコロナでやっていくしかない。けれど以前と比べて、若い人でワクチンを接種する人がかなり減っています。免疫を維持するには自然感染とワクチンのハイブリッドが重要だと思いますが、どうでしょうか?

谷口:はい。ワクチンによって免疫がつきますが、段々減衰しますし、粘膜免疫などは十分つかないです。ワクチンによる免疫と自然感染による免疫、二つ重なったものが最強という、エビデンスが出つつあります。ただ、先にコロナに自然感染すると、世界の国々が経験してきたように、莫大な被害が出ます。一定の人は重症化しますし、後遺症の問題もあります。コロナは感染性が強く、もう感染を避けることは難しいです。そうすると「いかに安全にかかるか」という話になり、ワクチンで基礎免疫をつけた上で感染する以外に方法はないと思っています。

「オミクロンは軽症で済むからオミクロンに感染すればいい」という話も耳にしますが、オミクロンは感染しても免疫があまり十分に獲得できないので繰り返し感染してしまうという報告があります。そうだとするならワクチンを接種しないと、感染をただ繰り返すだけですし、繰り返しの感染では後遺症のリスクが高まるという報告もあります。ワクチン接種した上で、ほとんどの人が繰り返し感染する中、徐々に季節性に移行していくのかなと考えています。

渋谷:ありがとうございます。これまでの話をまとめると、医療崩壊がなければ行動制限も必要にならないので、今の集団免疫レベルと、オミクロン以降の感染力を鑑みると、自粛というのは医療提供体制の問題の部分が多いと思います。ワクチンで基礎免疫をつけると共に、地域の医療機関でコロナを診られるようにしないといけないし、医療逼迫を避けるために、全数調査でただ感染者の届出数だけを見て判断するのではなく、確率論に基づくサーベイランスが必要になる。

我々は、集団免疫レベルを鑑みながら、サーベイランスで流行をとらえ、そして医療提供体制をウィズコロナの時代に見合ったものにするために、どう連携していくか、皆で考えないといけません。病床を確保できなかった特定機能病院などにペナルティを与える方向で感染症法を改正するそう[8]ですが、罰で人は動きません。自粛を要請しても皆さんもついてこられない状況だと思います。きちんとしたデータに基づいて、第8波や今後のコロナ対応を行う必要があります。

  

(編集・構成:東京財団政策研究所 研究部門 益田)


参考文献

[1] 厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」20221127日閲覧https://covid19.mhlw.go.jp/extensions/public/index.html

[2] COVID-19の集団免疫レベルの低下と再流行時期の予測」
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4094

[3] モデルは、滞在時間による免疫の減衰の効果を考慮に入れているため、集団免疫レベルの推移を捉える上で現実的と言えるが、再感染、免疫逃避や行動変容、transient collective immunity(行動変容や季節性などによる個人の社会的活動の時間変化)は考慮していない。詳細はReviewに記載。

[4]  厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」(令和41130時時点)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001008673.pdf

[5]  Joung SY, Ebinger JE, Sun N, et al. Awareness of SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection Among Adults With Recent COVID-19 Seropositivity. JAMA Network Open. 2022;5(8):e2227241.
doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.27241
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2795246

[6] 「医療逼迫の予防には医療従事者不足を解決せよ」
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4085

[7]  時事ドットコムニュース「病床確保義務化、違反に罰則 感染症危機、臨時国会で法改正へ―政府」(2022年11月27日閲覧)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090200910&g=pol

[8] NHK「感染症法など改正案 参院厚生労働委で可決 来週にも成立見通し」(20221127日閲覧)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221124/k10013901941000.html




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