R-2023-118
谷口清州研究主幹を中心とする研究班ではレジリエントな保健医療・社会システムの形成に向け、政策研究を続けてまいりました。本稿では、2.5年間の研究の集大成の1つとして、保健医療システムの再構築に資する、データに基づく検証と提言を公開いたします。
「データ駆動型のレジリエントなヘルスシステムに向けて」全文(42ページ)
- サーベイランスの現状と今後の新興感染症対策に向けての強化 /谷口清州 研究主幹(国立病院機構三重病院 院長)
- 地域におけるワクチンコホートからの教訓 /坪倉正治 研究主幹(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座 主任教授
- COVID-19の集団免疫レベルの推計モデルの実装と振り返り /國谷紀良(神戸大学大学院システム情報学研究科 准教授)
- ウイルスダイナミクスや臨床データを用いた健康危機への備え /江島啓介 主任研究員(南洋理工大学医学部 助教授)
エグゼクティブサマリー
1.サーベイランスの現状と今後の新興感染症対策に向けての強化(P.3)
谷口清州 研究主幹(国立病院機構三重病院院長)
- COVID-19対策において、対策に必要な情報を収集できず、エビデンスに基づいた対策の実施に結びつかなかった。
- 日本のサーベイランスの課題は、患者発生届出のみに依存していることである。現行の感染症法に、サーベイランスという、感染症対策のため包括的に情報を収集する戦略的視点を組み込むべきである。
- 欧米ですでに実施されているように、国民の健康に関するデータの相互連携を達成し、個人情報を保護した上で自動的に毎日の感染者、重症者と死亡者の集計を可能とするべきである。これらの詳細な臨床情報はワクチンや治療薬の迅速な開発にも貢献する。
- 単なる電子カルテのネットワーク化ではなく、現場に負担をかけないデジタルサーベイランス体制を設置し、戦略的な健康危機管理ネットワークとすべきである。
2.地域におけるワクチンコホートからの教訓(P.10)
坪倉正治 研究主幹(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授)
- 新型コロナウイルスワクチン接種後の免疫状態を評価するため、福島県の地域住民及び医療者を対象にワクチン接種後から3カ月ごとに免疫状態の評価を行った。繰り返しの接種において、抗体価はプラトー(頭打ち)状態に達していることが明らかになった。
- 抗体価が高いことと感染防御の相関は、新しいVOC(懸念される変異株)が生じる度に弱くなり、最後にはほぼ消失している傾向がある。今後のワクチン戦略を考え、繰り返しの接種をどの程度行っていくか検討する上で、データがもたらす示唆は重要である。
- 本コホート調査のような、ボトムアップ型の地域での検査体制の確立と、地域のワクチン行政へのフィードバックによる公衆衛生対応を、今後の自律分散型の健康保健行政において推進するべきである。
- 新型コロナのような詳細な疫学情報がない新興感染症において、特にワクチン接種による免疫状態のモニタリングは重要であり、科学的なデータが乏しい状況だからこそ議論や判断の一助となるよう、検査体制からデータを引き続き積み重ねていくことが重要である。
3.COVID-19の集団免疫レベルの推計モデルの実装と振り返り(P.21)
國谷紀良(神戸大学大学院システム情報学研究科准教授)
- 2022年3月から約1年間、数理モデルを用いて国内の集団免疫レベルの推計を継続的に行い結果を公表した。集団免疫レベルが低下したタイミングでの波の発生や、ワクチン由来の免疫と自然感染由来の免疫の獲得割合の地域差などモデル無しでは得られなかった、知見を提供した。
- 最後の推計ではハイブリッド免疫の減衰および再感染を考慮し、過去の数理モデルを修正した上で推計を行った。結果はサンプリングバイアスがあると考えられるが、免疫保持者全体の曲線は、厚生労働省によって実施された全国の抗体検査の結果と近い値を示している。
- 集団免疫レベルが低下したタイミングで流行が起こる可能性は否定できず、シミュレーションによる将来予測は、感染対策やワクチン接種時期の検討に資するであろう。
4.ウイルスダイナミクスや臨床データを用いた健康危機への備え(P.29)
江島啓介 主任研究員(南洋理工大学医学部助教授)
- パンデミックに柔軟に対応できる社会システムの構築には臨床・疫学データの収集、解析、そしてそのデータを活用した戦略的なアプローチが欠かせない。
- 隔離ルール設定は、隔離に伴うリスクと負担のバランスを考慮することが重要であり、科学的根拠に基づくルール設定と、その判断のためのエビデンス提示の意義は大きい。
- 本研究では、ウイルス量データとウイルスダイナミクスモデルを用いることで、隔離ガイドラインを定量的に比較・評価する手法を提案している。最適な隔離ガイドラインは受け入れ可能なリスク、検出限界、感染性閾値に依存していることがわかった。
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本研究班の研究成果の一つとして、徳田安春主席研究員による「レジリエントな医療提供体制の構築に向けて」を公開中です。医療崩壊や科学的根拠の無い投薬、COVID-19重症化のリスク因子としての精神疾患など、パンデミック下の医療提供体制について検証を行っています。
また谷口清州研究主幹と坪倉正治研究主幹による「原発事故とコロナ禍からの教訓:レジリエントなヘルスシステムとは」も公開しております。「福島原発事故と新型コロナウイルス感染症の健康問題における類似点の分析」「パンデミックの総括に基づいた、我が国にあるべきCDC機能の分析」を通じ、我が国の今後の健康危機管理に資する提言を行っています。
左記バナーより、これまで公開したReview(論考)の一覧や、プレスリリース記事、イベント動画・資料など、本プログラム関連成果がご覧いただけます。