このレビューのポイント
●第8波のピーク後の2023年1月15日までのデータを用いて、日本全国および主要5都道府県(北海道・東京・大阪・福岡・沖縄)の集団免疫レベルの推計を行った。
●第7波直後の自然感染由来の免疫レベルが高かった沖縄では第8波の流行が遅く、規模が小さかったが、同免疫レベルが低かった北海道では第8波の流行が早く、規模が大きかった。
●現在はどの地域でも集団免疫レベルはおよそ0.7(70%)であり、過去最高の水準となっている。そのため、しばらくは流行が抑制されることが期待されるが、免疫の減衰やウイルスの免疫逃避による再流行の可能性は否定できない。
●自然感染とワクチン接種による集団免疫レベルを継続的にモニターしながら、ワクチン接種間隔の延長の検討や社会経済活動の正常化を進めていくことが望ましい。
R-2022-115
1. はじめに 2. 結果 3. まとめ |
1. はじめに
日本で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が確認されてから3年が経過した2023年1月25日現在、国内の流行は依然として続いているが、2022年秋以降のいわゆる「第8波」のピークは過ぎたと見られ、各地での感染者報告数は減少傾向となっている(図1)。同日現在で国内の感染者の総報告数は3,100万人を超えており[1]、単純計算でも国内の約4人に1人は感染経験があることになる。無症状や軽症であるために報告数に計上されていない感染者も含めると、国内の自然感染に由来する集団免疫のレベルは確実に増加していることが予想される。本研究グループはこれまで、数理モデルを用いた国内の集団免疫レベルの推計を継続して行ってきた[2][3][4][5] 。本稿では、2023年1月15日現在の推計を行い、流行状況と今後の動向について考察する。なお、推計に用いた数理モデルは2022年10月26日公開Review [2]と同一のものであり、データの更新[a] のみを行ったため、モデルの詳細については割愛する。
図1. 第8波における主要都道府県の人口に対する日ごとの感染者報告数 [1] の7日間移動平均及びそのピーク日(2022/10/1~2023/1/21)
2. 結果
日本全体のCOVID-19に対する集団免疫レベルの推計結果を図2に示す。
図2. 日本の集団免疫レベル(2020/1/16~2023/1/15)
ここで、自然感染(赤)は自然感染に由来する免疫を持つ人の割合、ワクチン(紫)はワクチンに由来する免疫を持つ人の割合、自然感染+ワクチン(黄緑)はそれらを合わせたもの、部分免疫(青)は少なくとも1回は自然感染あるいはワクチン接種の経験がある人の割合を表す。自然感染(赤)、ワクチン(紫)、自然感染+ワクチン(黄緑)では免疫の減衰を考慮している。
2022年は年初に第6波、夏に第7波、秋以降に第8波があったが、図2では各流行の波のタイミングで自然感染(赤)が増加し、それに伴って自然感染+ワクチン(黄緑)も増加していることが分かる。特に、第8波が始まった2022年10月以前はワクチン(紫)が自然感染(赤)よりも多かったが、同月以降は逆転し、現在は自然感染(赤)がワクチン(紫)よりも多いという結果になっている。これは、第8波で感染者数が増えたことと、ワクチンの4回目以降の接種率が低い[6] ことに起因していると考えられる。現在、自然感染+ワクチン(黄緑)はおよそ0.7(70%)で、過去最高の水準になっている。
次に、主要都道府県(北海道・東京・大阪・福岡・沖縄)に対する推計結果を図3に示す。
図3. 主要都道府県の集団免疫レベル(2020/1/16~2023/1/15)
図3において、どの都道府県でも現在は自然感染(赤)がワクチン(紫)よりも多く、自然感染+ワクチン(黄緑)はおよそ0.7(70%)という結果になっている。特に沖縄では、第7波の感染者数が多く、2022年10月1日の時点で自然感染(赤)がワクチン(紫)を大きく超えていた。そのため、自然感染由来の集団免疫レベルが十分高かったと考えられるが、そのことが第8波において沖縄の人口に対する感染者報告数が少ない結果(図1)に繋がった可能性が考えられる。一方、2022年10月1日の時点で自然感染(赤)が比較的少なかった北海道では、第8波が早く始まり、人口に対する感染者報告数が多かった(図1)。また、福岡でも第8波の人口に対する感染者報告数が多かった(図1)が、これは2022年10月1日時点での自然感染+ワクチン(黄緑)が比較的少なかったことに起因する可能性が考えられる。実際、東京・大阪・沖縄では0.6を超えていたが、福岡・北海道では0.6を下回っていた(図3)。
3. まとめ
本研究では、第8波後の日本全国および5都道府県の集団免疫レベルの推計を行った。対象としたどの地域でも現在の集団免疫レベルは十分高まっており、今後の流行はしばらく抑制されることが期待されるが、免疫の減衰やウイルスの変異による免疫逃避によって再流行が起こる可能性は否定できない。今後、社会経済活動の正常化やワクチン接種間隔の延長の検討を進めていく上でも、自然感染とワクチン接種による集団免疫レベルを継続的にモニターしていくことが望ましい。
なお、再流行時期の予測を行う上では、モデルの精緻化が必要であると考えられる。実際、本研究のモデルでは簡易化のため、季節性、ウイルス変異、行動変容といった要因は考慮されていない。ただし、推計においては日ごとのデータへの当てはめによって時変の感染率を決定したため、それらの要因が潜在的には考慮されていると言える。
注
[a] 日本全国および各都道府県の日ごとの感染者報告数は[1] 、ワクチン接種回数は[6] で公開されているデータを用いた。
参考文献
[1] 厚生労働省,オープンデータ, https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html.2023年1月25日閲覧.
[2] 國谷紀良, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 渋谷健司, COVID-19の集団免疫レベルの低下と再流行時期の予測, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4094.2023年1月25日閲覧.
[3] 國谷紀良, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 渋谷健司, 第7波後の主要な都道府県の集団免疫レベルの推計, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4073. 2023年1月31日閲覧.
[4] 國谷紀良, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 渋谷健司, 第7波初頭での国内のCOVID-19の集団免疫割合の推計 〜パンデミック期からエンデミック期への転換に向けて〜, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4036. 2023年1月31日閲覧.
[5] 國谷紀良, 徳田安春, 中村治代, 諸見里拓宏, 渋谷健司, 数理モデルによるCOVID-19の国内の集団免疫割合の推計, https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3954. 2023年1月31日閲覧.
[6] デジタル庁, ワクチン接種記録システム(VRS), https://info.vrs.digital.go.jp/.2023年1月26日閲覧.
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