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G7で首脳が合意達成にコミットしたデジタル国際課税の“設計図”

「あなたがスマホでクリックすると、どこか遠くでたんまり儲かる企業がある。でも、税金はちょっぴりだけ」

ハモンド英蔵相がデジタル売上税導入をぶち上げた演説で述べたように[1]、デジタル技術の発展や“プラットフォーム”の利用は私たちの社会や生活を大きく変えた。しかし、一方で税制の持続性や公平性に難問を生んでもいる。

背景にあるのは、GAFAに代表されるテクノロジー企業のビジネスモデルに現在の国際課税ルールが追い付いていない問題や、高価値の知的財産とタックスヘイブンへの利益移転の問題だ。

こうした現状へのいわば“異議申し立て”として、フランス(2019年より導入)やイギリス(20204月より導入を宣言)といった有力国を含むいくつかの国々は、国際的な合意に基づかない独自の措置[2]として“デジタル売上税”の導入に動いた。

デジタル売上税関連法を公布したフランスに対し、GAFAなど米国テクノロジー企業を“狙い撃ち”にした税制であるとして、トランプ米大統領がワインへの報復関税をちらつかせながら猛反発したことは記憶に新しい(2019725日各紙報道)。

こうした“衝突”は人々の関心を集める。しかし、各国が国際合意に向けた努力を継続し、着実に前進していることに注目すべきだ。

このことは、8月末の仏・G7サミットの宣言文書や6月の大阪G20サミットの首脳宣言等で、2020年にOECDで国際的な合意を達成することについて繰り返してコミットしていることに顕著に表れている。首脳たちのリーダーシップに導かれ、今日この時も、世界各国の国際課税のプロたちがOECDで地道な作業を続けているのだ。

新しい課税ルール合意に向けた意欲を感じさせるエピソードもある。6月の福岡G20蔵相・中央銀行総裁会合に合わせてホスト国日本が用意した国際租税シンポジウムで、「新ルール合意の前提条件は何か」と司会のグリア・OECD事務総長に問われたルメール・仏蔵相、ハモンド・英蔵相は、「OECD合意があれば自国の独自のデジタル税は取り下げる」と答え、ムニューシン米財務長官は「すでに強いコンセンサスがあるように思う。この問題はタイミングが非常に重要だ」と応じてみせた。

8月の仏G7後のトランプ米大統領との共同記者会見で、マクロン仏大統領はデジタル課税をめぐる米・仏の争いを終わらせることで両国政府は合意したとわざわざ言及し、トランプ大統領は、フレンチワインはメラニア夫人(ファーストレディ)の好物だとジョークで応じたと伝えられる(827日各紙報道)。

「作業計画」という名のデジタル課税原則の“設計図”

8月26日の仏G7サミット宣言文書は(A4、1枚)、「G7はOECDの枠組みで2020年中に新しい国際課税ルールの合意に達することにコミットする」と宣言している。

ベースとなっているのは、5月末に130か国余りが参加する「OECDBEPS包摂的枠組み」が合意した「作業計画」(デジタル経済のもたらす課税上の問題に対する国際合意に基づく解決策の策定に向けた作業計画)だ。

作業計画は、

(1)第一の柱として、市場国(スマホでクリックするユーザーや消費者のいる国)における事業活動から利益をあげているのに、市場国に支店等の拠点がなかったり、事業を遠隔地(タックスヘイブンであることも多い)から行うなどの理由により、現在の国際課税原則では市場国で課税できない利益に対する課税権を市場国に再配分することによる「新課税権」の範囲や内容、課税方法等を明らかにすること、

(2)第二の柱として、国際的なミニマムタックスについてのパッケージの内容について詰めること、

を目指している。

これは、名前こそ作業計画(Programmed of Work)だが、日程表ではない。国際課税のプロ集団であるOECDの各作業部会に対して、具体的かつ詳細に検討項目や検討の方向性について示したうえで今年中に作業を行い、来年初めまでに骨子を作成し、来年にはそれに基づく政治的な合意を達成することを指示するものであり、ほとんど新しい国際課税ルールの“設計図”といってよい内容のものである。

国際合意に基づく案のキモ

OECDが年末までに骨子を作成することを目指して作業中の、国際合意に基づくデジタル所得課税に向けた案の要点について、以下の資料で解説する。

岡直樹「国際合意に基づくデジタル所得課税に向けた案について」
(『租税研究』第837号、324頁-328頁、2019年7月)

(公社)日本租税研究協会より許諾を得て転載。

※なお、これまでの経緯や背景については、岡直樹「BEPSポリシーノートから読み解くデジタル課税国際合意の方向性」に詳しい。


[1] 20181028日 予算案に関するハモンド英蔵相議会演説。

[2] ただし、現時点では、OECDWTOなど他の国際約束に反しない限りにおいて各国が独自の措置をとることを排除していない。

岡直樹

岡 直樹

研究分野・主な関心領域

  • 国際課税
  • 租税政策

研究ユニット

税・社会保障改革ユニット