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【ウェビナー開催報告・全文提供】OECD・BEPS国際課税改革と競争・格差
(公財)東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」

【ウェビナー開催報告・全文提供】OECD・BEPS国際課税改革と競争・格差

September 13, 2022

このレビューのポイント

公益財団法人・東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」では、100年に一度とも謳われるOECD国際課税合意(2021年10月)を題材に、デジタル課税が経済社会に与えるインパクトとその後の展望を探るため、パネルディスカッションを行いました。(2022年6月29日)
国際金融、報道、法学、税・社会保障改革など、異なった経験・専門領域を持つ4人のパネリストの方々に自在に論じていただくことを通じて、デジタル時代の企業課税、富の集中と競争や格差を巡る最先端の議論や展望を立体的に示すことができました。
パネリストの発言録を提供します。どうかご活用ください。
編集・文責 (公財)東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」岡

R-2022-040

  • 櫻井玲子 NHK解説委員(経済全般 国際経済 デジタル経済担当)
  • 中尾武彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)理事長。前アジア開発銀行総裁

(公財)東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」

  • 森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹(研究分担者)
  • 渡辺徹也 早稲田大学法学学術員教授(プログラムメンバー)
  • 岡直樹  東京財団政策研究所研究員(研究代表者) 司会

パネリストの発言録(文字起こし)

当日の資料

動画公開ページはこちら「【動画公開】OECD・BEPS国際課税改革と競争・格差」

ディスカッションのハイライト

NHK解説委員で、デジタル経済の取材・解説を続けてきた櫻井玲子氏は、今回の合意の意義として、国際課税が実は一般の人々の持つ格差やデジタル化についての問題意識に直結していることを広く知らしめたことをあげた。そして、各種データは富の集中がこれから急速に進むことを示しているが、今回の国際課税改革から得られる財源は、格差の是正という観点から得られるものなので、格差の是正に資する有意義な使い方をしてほしい、と注文をつけた。

無形資産からの所得(超過利潤)への法人課税を改善・強化し、その財源を再分配に充てるという発想については、中尾氏、森信氏等からも同様の提案があった。

財務省財務官・アジア開発銀行総裁等国際金融の最前線が長く、現在はみずほリサーチ&テクノロジーズ理事長を務める中尾武彦氏は、難しい国際合意が実現した背景には二極化ともいえる格差の広がりへの市民の強い憤りがあったと指摘する。そして、巨大企業が国境を越えて自由に行動することは、経済面を超えた社会のありかたの問題にかかわってきている。“巨大企業独り勝ち”のような状況に対しては、公平性や競争条件の観点から、完全に整合的に行うことができなくても問題のあるところから何等かの対応をしないと社会がもたない。技術的な問題、政治的意見集約の問題など、難しい問題はあるが「やらないとまずいということだけは強く思う」と強調した。

税制の構想や解釈にあたり、租税専門家は、「法の下の平等」への意識などから、整合性を重視して(“縛られて”)きた。中尾氏の指摘は、こうした租税専門家の、いわば字面の“平等”に一石を投じていると感じる。渡辺徹也氏も巨大企業を巡る問題は今日の法学が直面する問題の一つであることを指摘した。国家を凌駕するような巨大企業への税制の対応の在り方が、注目すべきテーマであることは間違いないだろう。

長年にわたり税・社会保障改革そしてデジタル経済と税制の問題を研究し、発信も活発に行っている東京財団政策研究所研究主幹・森信茂樹氏は、BEPSの始まりには英国でのスターバックス不買運動などの市民運動があったが、日本ではこうした動きは弱いことを指摘し、マスコミもシンクタンクも企業がそのプレゼンスに応じた納税をしているかどうかに注意を払う必要があると訴えた。また、“デジタル課税”として始まった今回の国際合意「第一の柱」による課税の対象となる日本企業は数社ということで、日本企業は安心したかもしれないが、製造よりデータが付加価値の源泉というビジネスモデルが日本企業の中でも広がっており、今後課税のありかたも変わっていくことを念頭においておくべきだと指摘した。櫻井氏も、課税対象を巡る国際交渉の行方を見守っていく必要性を指摘している。

早稲田大学法科大学院教授で法人税に詳しい渡辺徹也氏は、世界の6000社程度が対象になる「第二の柱」の措置(IIR:外国子会社の高利益率の所得を親会社で合算課税)を我が国が導入する場合、同様に外国子会社の所得を合算課税する国内法上の制度であるCFC税制(タックスヘイブン対策税制)について、事務負担合理化の観点から見直すべきであることを指摘した。また、改正にあたり、CFC税制の趣旨目的について明らかにする良い機会とすべきだと提案した。

昨年12月の自民党・公明党税制改正大綱は、国際合意に従った税制改正を行うことについて述べており、今後令和5年度税制改正等の中において具体的な検討が行われるのでないかと思われる。

国際合意は実現するか

国際合意の「第1の柱」の措置は、巨大なグローバル企業の高い利益(超過利益)の一部分を売上に応じて各国で課税できるようにするもので、対象となるのは世界のトップ100社程度と目されている。森信氏は、これでは多くの市場国が期待した税収には届かず、将来の対象の拡大は必須とみる。渡辺氏は、第一の柱の施行と引き換えに、米国が強く反発している欧州のDST/デジタルサービス税(売上税)の廃止が合意されているが、個別の国にとってはDSTの税収の方が第一の柱の措置がもたらす税収より大きいと見込まれており、国際合意がスムーズに施行されるか、もう一悶着あるかもしれないと指摘する。

なお、国際合意が計画どおり2023年までに施行される可能性については、現時点(20228月)では不透明な部分が多いが、予定通りの実施は困難というのが客観情勢となっている。櫻井氏は、企業の予測可能性を高めるための合意の実施時期が不安定なのでは、企業に不必要な不安を与えてしまうと、極めてもっともな苦言を呈している。

デジタル経済が生む無形資産とこれからの法人税のありかた

デジタル経済における企業の莫大な利益の源泉は無形資産だ。しかし、法人税に対するの課税にあたり無形資産を正しく評価し、課税することは容易ではない。対応を強化しようとすると法人税制は必然的に複雑化し、企業・税務署にとっての事務負担もかさむ。法人税を巡る森信氏、渡辺氏の議論を聞いていた中尾氏から、法人税は複雑化する一方、赤字の方が得といった問題も内在している。そこで、単純に売上から仕入れを引いた付加価値分について課税し、歳出の方で再分配を行う方が、経済に与える歪みもなく執行上も簡素なのでないかという問題提起があった。

この発言を受け、森信氏は重要な問題提起であり、例えば欧州のデジタルサービス税(DST.売上税)は、現在の法人税が「仕向地法人税」に変わっていく中間にあると捉えることができるのではないか、と応じた。渡辺氏も、仕向地法人税の原型はトランプ氏が大統領選挙の際に訴えたDestination Based Cash Flow Tax(国境調整税)にあるが、これは単なる政治上の主張にとどまらず、理論的にも支持し得るものであることを指摘した。また、森信氏も渡辺氏も、無形資産の生む高利益への課税は超過利潤(レント)への課税であり、通常の経済活動への歪みが少ない優れた税であることを指摘している。

デジタル経済における無形資産が生む高い利益(超過利益)に対する課税のありかたについては、いくつかのアプローチがありうる。今回の国際合意第一の柱が示したものも含め、今後活発な議論が行われることが期待される分野だ。

富の集中にどう向き合うか

櫻井氏は、コロナ禍により格差はさらに拡大している。今回の国際合意により法人税の税率引下げ競争に歯止めがかかることが期待されているが、富裕層の課税強化においても、イノベーティブな動きを促すような規制緩和とセットで、国際的な議論を通じて富裕層課税のRace to the bottomを止めることはできないかと提案した。また、デジタル時代の経済社会の変化のスピードは非常に早いが、国際課税ルールについての交渉のタイムラグを縮める努力をしてほしいと注文をつけた。

森信氏からは、ピケティが指摘するように歴史的にr>gを観察することができるので、資産所得に課税するだけでは格差を縮めることはできない資産そのものへの課税を考えなければならないとの指摘があった。渡辺氏からはプラットフォーマーを介在したシェアリングエコノミーには格差を広げるメカニズムが内在している(share-the-scrap economyという見立てすらある)。シェアリングエコノミーを通じた格差拡大への対抗として、プラットフォームへの課税とプラットフォーム企業に対してサービス提供者への分配を促す税制上の恩典の導入などを行うことについて提案がなされた。

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