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「ワイズスペンディング」は、「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング」へ   
写真提供:Getty Images

「ワイズスペンディング」は、「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング」へ  

June 1, 2022

R-2022-011

財政支出への要望がますます強まっている。高齢化に伴う社会保障費はもとより、人への投資、デジタル、グリーンなどの社会課題の解決に財政支出をもっと投じるべきという主張や提言が相次いでいる。

加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、安全保障への関心が一気に高まった。折しも、政府が5~10年おきに改定している安全保障関連3文書(「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画」)の改定に着手することとなっており、防衛費の中長期的な規模が焦点となっていた。そこに、国防費を対GDP比で2%を目標とするNATO(北大西洋条約機構)諸国に倣って、わが国でも防衛費を対GDP比で2%程度にまで増やすべきとの主張が高まっている。

増加傾向が続くとされる社会保障費だけでなく、ポストコロナをにらんだ新分野への投資に加えて、防衛費にも財政支出を求める状況になっている。

もちろん、これらの財政支出増の財源を賄うための負担増に、国民のコンセンサスが得られていて、税財源等の負担増が財政支出増と合わせて企画されているならば、持続可能だろう。しかし、負担増についてのコンセンサスはまだ得られていない。

負担増によって財源を賄うことができないならば、わが国の財政の歳出構造全体を見渡して、優先順位をつけて、選りすぐって財政支出を投じていくしかない。

そうした歳出のあり方については、これまでにも「ワイズスペンディング」の発想が謳われてきた。これまでの経済財政運営と改革の基本方針(以下、「骨太方針」)をみると、2015年から7年連続で「ワイズスペンディング」を用いた言及がある。「骨太方針」は閣議決定される文書であるだけに、その意味は重い。

20216月の「骨太方針2021」では、「ワイズスペンディングの徹底と4つの成長の原動力への予算の重点配分」との文言が盛り込まれている。「骨太方針2020」では、「EBPM( 証拠に基づく政策立案:筆者付記)の仕組みと予算の重点化、複数年にわたる取組等の予算編成との結び付きを強化することにより、ワイズスペンディングを徹底する。」との文言が盛り込まれている。「骨太方針2019」では、「ワイズスペンディングを一層強化するとともに、生産性を高め、豊かな暮らしを守るプロジェクト等をメリハリを付けて戦略的に展開し、将来世代に質の高いストックを引き継ぐ。」との文言が盛り込まれている。

「骨太方針2018」では、「ワイズスペンディングを一層強化する。」との文言が盛り込まれている。「骨太方針2017」では、「政策効果が乏しい歳出は徹底して削減し、政策効果の高い歳出に転換するワイズ・スペンディングの仕組みを強化し、予算の質を更に高める。」との文言が盛り込まれている。「骨太方針2016」では、「財政の『質の改善』を図り、現下の課題に対応するため、歳出の中身を大胆に入れ替え、政策効果が乏しい歳出は徹底して削減し、政策効果の高い歳出に転換するワイズ・スペンディングの仕組みの強化が重要である。」や「国・地方のワイズ・スペンディングを推進し、効率的な資源配分を実現していく。」との文言が盛り込まれている。「骨太方針2015」では、「次世代のための『人への投資』を行って、『富の継続的創造』を図るという観点から財政の『質の改善』を図り、現下の課題に対応するための長期的な成長を見据えたワイズスペンディングとし、メリハリをつける中で、必要な課題に対応する。」との文言が盛り込まれている。

そもそもをたどると、拙著『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)で扱っているリーマンショックに端を発した世界金融危機に対応すべく、麻生太郎内閣期に経済対策を講じるのに際して、与謝野馨経済財政担当大臣が「ワイズスペンディング」を用いたことから、わが国でも多用されるようになった。わが国で登場した当初は、この言葉に「賢い支出」との和訳が当てられていた。

これほどにまで、「ワイズスペンディング」が長年にわたり、財政政策の決定過程で用いられている。

しかし、こうした文書で意図しているように「ワイズスペンディング」はわが国で実現できたのだろうか。多くの国民は、その実感がないのではなかろうか。しかも、年を追うごとに「ワイズスペンディング」の含意は形骸化しているように思われる。

ただ、財政支出の優先順位を明確にするとか、財政支出の質を改善するとか、その政策効果の高いものに選りすぐるとか、という趣旨は、いつの時代でも重要である。とはいえ、今や「ワイズスペンディング」は、言い古されてくたびれた感がある。

そこで、こうした趣旨を財政支出に反映するのにふさわしい別の言葉が必要ではないか。それは、「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング(outcome oriented spending)」、邦語でいえば「成果志向の支出」である。

 

「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング」は、今年525日に取りまとめられた財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)の建議「歴史の転換点における財政運営」の本文に盛り込まれた。[1]

それは文字通り、財政支出のアウトカムを事前に問うのである。これまでの我が国の財政支出は、出したら出しっぱなし。その後の結果を問わないし、問われないことが多かった。しかし、それでは真の意味で「ワイズスペンディング」は実現できない。

むしろ、どのようなアウトカムを実現すべく財政支出をするのかを、事前にコミットする。そして、よりよいアウトカムを実現できるように、財政支出を用いる。そして、事後的にそのアウトカムがどのように実現できたかを問うて、PDCAサイクルを回す。その過程で、アウトカムがその財政支出によってどの程度実現できたかを検証すべく、EBPMの手法を用いる。

「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング」という考え方は、PDCAサイクルやEBPMとも極めて親和的である。こうした発想で、今後の財政支出の選りすぐりを進めてゆくべきである。

 


[1] この建議が取りまとめられる過程で、「アウトカム・オリエンティッド・スペンディング」は、202248日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会にて筆者が発言した中で述べた言葉が初出とみられる。

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