森信 茂樹
前回に引き続き、日本維新の会の経済・財政・税制政策を吟味したい。今回は、道州制とその財源、地方間財政調整について取り上げた。
1、道州制とその財源~消費税の地方税化は正しいか~
基礎自治体の機能を強化しつつ分権を進めていくことの必要性については筆者も同感である。多様化する国民ニーズを国がすべて拾い上げて行政をするには、中央集権型の行政運営は時代遅れであろう。
しかし注意すべき点がある。それは、わが国は分権国家ではないということである。現行憲法は、地方自治体へ国の立法権や司法権の一部移譲を認めておらず、わが国が単一国家であることを規定している。したがって、分権にもおのずから限度があり、それを踏まえて(わきまえて)の議論が必要だ。
具体的な姿として維新の会は道州制を掲げているが、その財源・税源をどう考えるべきか。道州制の中身が不明なので、筆者は「地方政府」という言葉を使って議論してみたい。
(1)地方政府にふさわしい税財源
本来地方政府にふさわしい税財源とは、税収の安定性があり偏在性がないこと、地方政府の各種サービスへの応益性、つまり受益と負担の関係が明確であることである。分権の思想を徹底するためには、地方住民が追加的なサービスを望む場合、他のサービスを削減するか増税するか住民が選択できるようにする税制が理想である。これを限界的財政責任と呼ぶ。
この観点からは、直接税である、固定資産税と所得税(住民税)が地方財源としてふさわしい。大きな家屋に住んでいる住民は、その分警察や消防、果てはごみ処理などのサービスを享受しているので、それに応じて税負担をするべきという考え方は、公平性の観点からも住民の支持を得やすい。英国の地方政府はすべてカウンシルタックスという固定資産税での財源調達となっているが、自治体サービスの優劣に応じて数倍の差異がある。
スウェーデンでは、手厚い社会保障サービスが地方政府を通じて提供されているが、その財源はすべて個人所得税である。ドイツの市町村でも、個人所得税が税収の3分の2をしめている。住民の負担で行政サービスを実施するという意思表示である。
いずれの国でも、税金が高くても警察・消防・学校・福祉サービスのいい自治体に住みたい、サービスはそこそこでいいから税金は低いほうがいい、という住民の選択肢を尊重できるようにする、ということである。
(2)消費税の地方財源化の問題点
では消費税はどうか。消費税が地方税として財源の一役を担うという考え方はおかしくはない。かつてシャウプも、地方税として加算型付加価値税を提言したことがある。しかし、全額地方税にして、「道州制のもとで自治体が自由に税率を決めるようにする」という考え方には重大な欠陥がある。
第1に、住民自治の基本となる限界的財政責任を果たせないという点である。財政責任を果たすためには、自治体ごとに受益と負担の関係を住民に問えるような税制である必要があり、全国統一的に税率を定める必要のある消費税はそれができない。
欧州やわが国の導入している多段階型の付加価値税では、州ごとに税率を変えるためには、国境(州境)調整が必要となる。これをやらずに州ごとに異なる消費税率を設定するとどうなるか。
関東州は8%の消費税、北海道は10%の消費税となったとしよう。関東州の小売業者が北海道の業者から(税抜き価格で)400円で仕入れて500円で販売するような場合には、関東州の小売業者は、関東州の消費者から40円(500円×8%)の消費税を預かり、仕入段階で負担した40円(400円×10%)の消費税を控除して関東州税務署に納めることになる。このようなケースの場合、小売り業者が関東州に納める税金は、40-40=0で、ないことになる。
40円の消費税を負担した関東州住民としては、自分は関東州に消費税を支払った気持ちでいるのであろうが、税収は関東州には入らない。これは、消費税が前段階控除型の多段階課税であるために生じることである。
また、消費税率の低い州に移転する通信販売業者や、税率の低い州への越境買い物が急増するので、それに対抗するために各州間で税率の引き下げ競争が生じ結局各州とも減収になる可能性が高い。
このようなことから、先進国で消費税を地方税にしている国は、歴史的にケベック州の独立問題を抱えるカナダぐらいである。
すでに消費税収は、地方消費税と地方交付税という2つの制度で、半分が地方に移譲されている。残りの半分が社会保障など国の経費に充てられている。消費税全額を地方税化する理由は全くない。
2番目の理由は、今後高齢化が進み、社会保障経費を恒常的に確保する必要があるということである。年金は国が全責任を持って整備し、医療も基本のところは国が関与せざるを得ない。そこで、消費税は国にとって、最重要の税目といえ、これを全額地方税に、というのはあり得ない選択肢である。
(3)地方財源の充実には、地方消費税の分離・独立化が望ましい
この問題を、国と地方の財源の取り合いという観点から取り上げると、維新の会の主張は論拠がないことになる。しかし視点を広げて、分権化する地方財源の強化という観点で考えるなら、解決の方向は見えてくる。
それは、現在国の消費税率に機械的に連動している地方消費税を分離独立させることである。現在国の消費税率は4%、この25%分(つまり1%)が地方消費税となっている。これを国の消費税4%、地方消費税1%と切り離すのである。
やや専門的で分かりにくい議論であるが、以下解説してみよう。
現行法では、地方消費税という税は、課税標準が国の「消費税額」で、税率がその25%となっている。この結果、地方消費税率は4%×25%=1%となり、双方は連動した税である。これは、国と地方で協力して消費税率を引き上げていく必要性があるということの意味合いをもたせるためだが、きわめてわかりにくい。なにより、国税と連動していたのでは、国と同じタイミングでしか議論ができない。
そこで、まず、国の消費税率4%、地方消費税率1%というように分離独立させる。地方は国の財政と切り離して税率を動かせるようにする。こうすれば、地方は、それぞれの住民に訴えることで、国とは関係なく、地方政府の必要に応じて地方消費税率を2%、3%に引き上げることが可能になる。
その際重要なことは、経済の混乱を避けるため、対国民では税率は一本(地方消費税率も一本)とし、今のように徴収は国で行うことである。
これにより、分権後の地方政府は、自らの財源を拡充したいなら住民に訴え、「受益」と「負担」の問題を問うことになる。たとえば、地方経済の活性化のために地方法人2税を引き下げたいならば、その財源は地方消費税の引き上げで賄うことが可能になる。これが、分権化のもとでの消費税・地方消費税の在り方である。
(道州制のもとでの)地方政府の基本的な財源は、直接税である固定資産税と住民税で充実を図る。補強・充実する財源として、地方政府の責任者が共同で、全国一律税率の地方消費税率の引き上げを訴える。これが自立した地方政府の財源のあり方であろう。
2、地方政府間の財政調整は?~「地方交付税制度の廃止」と「地方間財政調整制度の導入」~
次の論点は、「地方財政計画制度・地方交付税制度の廃止」と「消費税の地方税化と地方間財政調整制度(の導入?筆者注)」である。
いずれも、国からの財政的独立を果たして、地方分権にふさわしい政治体制を構築するという考え方に基づくもので、方向は間違っていはいない。
(1)現行交付税制度の問題点
まずは地方財政計画と地方交付税の廃止を取り上げる。
地方交付税は、全国水準(ナショナルミニマム)の行政サービスを維持するために、税源の偏在からくる地方間の財政力格差を調整(財源調整機能)し、必要な財源を保障する(財源保障機能)という2つの機能を持つ制度である。その前提となるのが地方財政計画で、全国水準の行政サービスを維持するという名目で、国(総務省)はあらゆる行政分野に介入することになる。個別の中央省庁が特定補助金で介入してくるのと同じ構図である。
しかし、補助金や交付税という国からの資金移転は、地方政府や住民に税負担を感じさせないことから、モラルハザードや無駄な行政を生じさせてきた。いわゆる財政錯覚である。
横並びのサービス水準を達成したい意識の強い地方政府や住民は、自らの負担意識が希薄なもとでは、「受益」は最大限に、「負担」は最小限にという政策を志向しがちである。「受益と負担」の緊張メカニズムがはたらかず、地方財政は肥大化する。
地方政府や住民に「受益と負担」のメカニズムを働かせるためには、国による財政調整制度を廃止・縮小して、その財源をもとに税源移譲を進めることが考えられる。しかし、税源移譲は財源の格差をさらに拡大する。そこで、必要最小限の財源調整メカニズムが必要となる。国の必要以上の関与を改めるために、国から地方へ財源を再配分する地方交付税制度を見直すことは、分権の方向としては間違ってはいない。
(2)水平的調整は望ましいが実現には課題が多い
維新の会は、地方交付税制度を廃止し、新たな財政調整措置として、地方間財政調整制度を提言している。
地方自治体間の財政調整制度には、財源を国の資金で賄う「垂直的調整」と、自治体間で調整する「水平的調整」の2つがあり、ドイツとスウェーデンが水平的調整を行っている。
メリットは、国の財源で足らざるところを補てんする現在制度では、富裕団体(不交付団体)が超過税収を取り込むことになるが、水平的調整では、すべての自治体間で均等化するために、そのような取り込みが生じないことである。スウェーデンでは、財源を拠出する地方が、給付を受ける地方の歳出を監視するモニター効果が働き効率化が図られる点がメリットとして挙げられている。
しかし実現に向けては大きな課題がある。
第1に、他の自治体のために自らの自治体の住民に課税することになるが、憲法上の問題は生じないかという点である。現在条例に基づき自治体の住民に課税しているのだが、その税収を他の自治体の譲与することになる点への法律的な詰めを行っておく必要がある。
2番目に、最大の課題であるが、地方間の税収に大きな格差がある中で、出す側の富裕団体がこのような調整制度に同意するか、という点である。
現在東京都と沖縄の間には、3倍の税収格差がある。これは、税収の偏在が大きい法人住民税、法人事業税(以下地方法人2税)のためである。
そこで、この偏在を是正するために、平成20年度改正で、地方法人特別税が導入され、法人事業税の半分(2.5兆円、消費税収1%分)をいったん国庫に集め、人口と従業員数に従って都道府県に再分配する(地方法人特別譲与税として各都道府県に譲与する)制度を創設した。
この制度の創設に当たっては、税収の持ち出しになる東京都、「大阪府」、神奈川県、愛知県は大反対をした。平成21年12月には、制度を元に戻せという意見書を、4県の知事(石原東京都知事、「橋下大阪府知事」など)の連名で発出している。
この程度の「水平調整」をするだけで、持ち出しになる都府県は大反対をし、現在まで反対運動は続いているのである。ましてや根っこの財源をすべて地方間で調整することが可能だろうか。大阪府は今年6月にも松井大阪府知事のもとでまとめた国の施策・予算に対する提案・要望の中で、地方法人特別税の廃止を求めている。大阪府はまず地方法人特別税の反対を取下げる必要があるのではないか。
(3)分権化は手段であって目的ではない
分権は時代の流れにしても、それを運営する財源はどう調達するのか、単なる帳尻合わせの仕組みを導入するだけでは意味がない。歳出削減努力の義務付けや、自助努力による経済活性化、課税自主権の発揮による財政再建努力を行っているかどうか、これらを住民が監視をするメカニズムの構築が必要である。そして究極的には、われわれへの公共サービスの質が向上すること、つまりより効果的・効率的な地方行政が目標である。
維新の会の政策は決して間違った方向は向いてない。むしろ、これからのわが国の経済社会の在り方を変えていく骨太の問題提起がいろいろ含まれている。しかし現段階での内容は、消費税の全額地方税化など現実離れした提言内容も含まれるなど、雑然としているので、早急に整理する必要がある。
さらに、現実を見据えた改革へのタイムテーブルを明らかにし、活発な議論の起爆剤となっていくことが望まれる。
参考文献 拙著『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)
第6章4 地方分権と消費税、第7章3 税源移譲