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始まった預金付番を社会保障の効率化に

January 12, 2018

東京財団の税・社会保障調査会では、「ICTの活用と税・社会保障改革」について議論を深め、昨年政策研究報告書「ICTの活用と税・社会保障改革」を出したところであるが、ICT活用の具体的な動きとして、本年年初から「預金のマイナンバー付番」が始まった[1]

新規口座の開設や、住所変更などの際に、金融機関の窓口で、マイナンバーの提供が求められる。預貯金者に直接的な義務を課すわけではないので、「任意」での付番といえる。

預貯付番の趣旨は、マイナンバーを税と社会保障に活用しようということで、社会保障の資力調査や税務調査において複数の金融機関をまたがる残高の把握が容易になり、調査の実効性が高まると期待される。具体的には以下の3つを目的としている。

まず、社会保障制度にある「所得」や「資産」要件を、適正に執行することである。とりわけ生活保護については、資力調査が必要とされており、その際、金融機関に対してマイナンバーを利用して名寄せ・照会できるようになり、その実効性が高まることとなる。

次に、税務の適正・公平な執行である。税務当局は、税務調査においてマイナンバーを利用できることになっているが、金融機関に対して反面調査の必要がある際など、マイナンバーにより名寄せができればより適正・公平な調査が可能となる。そこで、国税通則法・地方税法に、「金融機関は預貯金口座情報をマイナンバー又は法人番号によって検索できる状態で管理しなければならない」旨が規定された。

最後に、いわゆるペイオフ対策である。金融機関の破たん時には、預金保険機構などが1人あたり元本1000万円と利息を保護することとなっているが、元本を正確に把握するには預貯金口座の名寄せが不可欠で、預金者がその銀行に複数の口座を持っていないか確認する事務が必要となりその際マイナンバーを活用するということである。

「任意」で始まった預金付番であるが、これを「義務付け」にすべきだ、あるいはして欲しいという声がある。個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律(平成27年改正法)の附則(12条4項)には、「政府は・・・施行後3年を目途として、預貯金者等から、適切に個人番号の提供を受ける方策及び預貯金付番開始後の番号利用法の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、国民の理解を得つつ、所要の措置を講ずるものとする」としている。これが3年後見直しと呼ばれている。

見直しと並行して、行政機関からの公金振込口座(年金受取口座や税金の還付口座など)に付番されるよう、行政機関が取得した番号情報を金融機関に提供するなどの預貯金付番促進支援策の検討も進んでいく可能性が高い。公務員給与の振込口座にも付番されるという話がある。

また、金融機関は、窓口での付番について、マニュアルを作って対応しているが、「任意」ではなかなか実効性が上がらないとか、金融機関によってばらつきがあるといったことがすでに言われており、金融機関側から「付番の義務付け」を要望してくる可能性もある。

筆者は、税制と社会保障を効果的・効率的に運営していく必要性はますます高まると考えており、その立場から預金付番の義務化を促進すべきと考えている。

社会保障制度においては、年齢ではなく「所得や資産等の経済力に基づき」負担を求める仕組みに変えていくことがすでに閣議決定されている。

2015年骨太方針における記述(2015年6月30日)

「(負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化) 社会保障制度の持続可能性を中長期的に高めるとともに、世代間・世代内での負担の 公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から、医療保険における高額療養費制度や後期高齢者の窓口負担の在り方について検討するとともに、介護保険における高額介護サービス費制度や利用者負担の在り方等について、制度改正の施行状況も踏まえつつ、検討を行う。また、現役被用者の報酬水準に応じた保険料負担の公平を図る。このため、社会保障改革プログラム法63に基づく検討事項である介護納付金の総報酬割やその他の課題について検討を行う。 あわせて、医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融 資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、実施上の課題を整理しつつ、検討する。」

これに先立つ2015年4月27日の財政審資料は、資産を勘案する場面として、現役世代と高齢者で差がある高額療養費制度の見直し、後期高齢者の医療窓口負担の見直し、介護保険における窓口負担の見直しを例示し、夫婦高齢者世帯の収入階級別の貯蓄保有状況、高所得者の年金給付のあり方を記している。

(財政制度等審議会の資料のリンク先(39ページ以降を参照))

http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia270427/01.pdf

また具体的な方法として、各種の負担を「原則現役並み」にそろえることとし、一定以下の金融資産であることを、利用者が証明した場合には、負担を軽減するということなどが提案されている[2]

さらに、現行の社会保障に生じている逆転現象を緩和するための制度設計にマイナンバーを活用することが考えられる。

2016年10月から多くの大企業については、パートなどの社会保険料の加入者の年収要件が130万円から106万円に引き下げられた。これ自体は、年金制度の拡充で正しい方向の改正だが、106万円のところで、これ以上働いて稼ぐと社会保険料負担が生じる結果手取り収入が最大16万円減る逆転現象が生じるので、106万円を超えないようにと、就労調整が行われている。

今後検討が進んでいく教育無償化についても、同じようなことが生じる。住民税非課税世帯という一点をメルクマールとして返済義務のない給付型奨学金を拡充したり、高額の高等教育授業料を補助したりすると、住民税がかからない世帯が、住民税を払う世帯よりも所得が多くなる「逆転現象」が起きる。これが就労調整にもつながりかねない。

このような逆転現象が生じる原因は、制度適用の可否を一定の収入という「点」で決めるという制度設計のまずさにある。このような課題に対して欧米諸国では、逆転現象が生じないよう、勤労税額控除(米国・スウェーデン、フランスなど)やユニバーサルクレジット(英国、給付付き税額控除)などの制度を導入して、制度の適用を収入に応じてなだらかに調整する制度を導入している。

欧米のような、「壁」が生じないよう本人や世帯の収入に応じて、社会保障給付を逓増・逓減させる制度を構築するには、マイナンバーを活用し正確な所得を世帯単位で把握し、逆転現象が生じないように一定金額の社会保障給付を給付することが必要だで、わが国の今後の社会保障を考えるうえで非常に有益な政策である。

図表は、年金の手取り逆転現象を緩和するための具体案(イメージ)である。

もう一つ重要な政策として、消費税軽減税率の代替案としての低所得者への給付(給付付き税額控除)がある。低所得者を3つ、4つに区分して、その食料支出分に係る消費税額を計算し給付する「簡素な給付付き税額控除」(実質は給付)を導入すれば、高所得者がより多くの恩恵を受けという意味で政策意義が乏しく、外食産業の大混乱が予想される軽減税率の導入は回避できる。

この案に対して公明党などは、「正確な所得把握ができていないことが問題」というが、教育の無償化、児童手当、介護保険料、保育園の入園料など、わが国ではすでに数多くの所得基準の給付や負担が存在している。

マイナンバーも導入されており、「正確な所得の把握」に向けて政府は努力すべきだ。将来的には、土地、家屋等の固定資産への付番も進めていけば、社会保障における資産要件を活用した社会保障の効率化が進んでいく。

このように、マイナンバー制度の導入により、「世帯所得」と「金融資産」(預金口座情報)の活用が可能となる。今後も、預金付番の必要性に対する国民理解を促す努力とともに、義務化に向けた速やかな検討が望まれる。

[1] 個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律に基づく

[2] 株式会社日立コンサルティング  日立コンサルティングレポート004『「マイナンバーを活用した社会保障適正化の方向性』、「社会保障にマイナンバーをどう活用するのか」森信・吉識、とりわけ吉識 「マイナンバーを活用した金融資産把握の方向性」を参照。

(日立コンサルティングレポートのリンク先)

http://www.hitachiconsulting.co.jp/hc_images/business/pdf/public_mynumber.pdf

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