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連載コラム「税の交差点」第11回:ロボット・タックス―AIに課税するとは(上)

April 20, 2017

筆者の親しい友人で、2020年の東京オリンピックを楽しみにしている人がいる。かつてフランスに勤務をした経験があるので、昔取った杵柄と、オリンピックを機会に訪日するパリジェンヌをボランティア通訳して東京案内をしたい、と考えている。フランス語がさび付かないようにと、今からアテネフランセに通って、その日の来ることを心待ちにしている。

このような団塊世代の善意に水をかけるようなニュースが掲載された。「AI同時通訳 五輪までに 政府、成長戦略に明記」(17年4月17日付日経新聞)である。

記事内容を要約すると、「政府は人工知能(AI)を使った高精度の同時通訳システムを2020年の東京五輪・パラリンピックまでに実用化する。6月にもまとめる成長戦略に方針を盛り込む。スマートフォン(スマホ)などの携帯端末でリアルタイムの通訳を実現し、ビジネスや観光、医療で課題となる言葉の壁をなくす。訪日する外国人が気軽に楽しめる町づくりにつなげる。」というものである。

「ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる最新の技術を使って、通訳の精度を向上する。AIが大量の日本語や英語のデータを高速で読み込み、人間のように学習する。例えば観光地の名称は『ここは有名な史跡です』と付け加えて紹介するなど、日本人ガイドと話すかのような通訳にするのが目標だ」という。

オリンピックのボランティア通訳兼観光案内を考えていた友人は、おそらくこのニュースを苦虫をつぶすような顔をして読んだことだろう。もちろん、ボランティアだけでなく、職業通訳の方も、AIに仕事を奪われることになりかねない。

このように、日々進化するAIだが、経済・社会に計り知れない影響を及ぼす。それは、大量の失業者と、所得・富の格差拡大である。AIというものを所有し、活用する立場につく者と、それによって仕事を奪われ失業する者の格差は、AIの発達と幾何級数的に比例して大きくなるだろう。

失業した人々は、「AIが考えつかないようなクリエーティブな仕事を探せばよい、人間のホスピタリティーや感性が必要な分野はなくならない」とう楽観的な(能天気な)見解を主張する経済学者も現れ始めた。

しかしそのようなことが果たして現実に起きるのだろうか。

筆者は「人々の多くが失業するようになれば、彼らの消費が落ち込んで、AIが提供する新たなサービスを購買することができなくなるので、その結果AIの発達はそこで止まってしまう」と考えている。しょせん経済は、需要があっての供給で、供給側だけAIの発達で生産性が向上しても、それを消費する需要がついていかなければ経済は均衡・発展しない。

わかりやすくたとえれば、次のようなことだ。ロボットホテルができて、ホテルの運営コストが半分になり、安価でホテル宿泊ができるとしても、ホテルに泊まろうとするお客の方が失業して所得が減っていれば、宿泊客は増えず、ホテル経営は成り立たなくなる。

そこで出てくるのが、半分失業時代に対処すべく、「政府が国民全員に無条件で一定額の生活保障の給付をする」という考え方である。

この考え方は、ベーシックインカムと呼ばれており、18世紀に起源を持つ思想である。

AIの発達により生産性が現在の2倍に上昇すれば、我々の労働は半分でよくなり、残りの半分の労働に対応する所得は国家が保障・給付することができる、というわけである。

ここ20年来リベラル派が、貧困対策として主張してきたアイデアであるが、最近では、リバタリアン・新自由主義者も、執行に多大のコストのかかる社会保障制度をスリム化し、小さな政府を実現しようという考え方から主張をしている。

全くの空想物語と言えないのは、米国アラスカ州やアラブ諸国の一部で、石油の算出による経済的利益を国民や州民に還元するという観点から、無条件の生活の補助が現実に行われており、スイスでの国民投票(否決)、フィンランドでの導入実験などがあいついでいるのである。

今日この考え方を多くのシリコンバレーの成功した経営者たちが、「贖罪」のように語り始めている。シリコンバレーの企業は、日夜タックスヘイブンに所得を移転させる租税回避にいそしんでいる。アップルもグーグルも、スターバックスも御多分に漏れない。そんな彼らが、ベーシックインカムがなければ自分たちの存在が脅かされる、と気が付いたようだ。

皮肉って言えば、極度に資本主義が発達すると、次にやってくるのは共産主義、ということのようにも見える。

ここで現実に気が付く。必人があくせく働かなくても生活できる費用が一人当たり年間120万(月10万円)とするならば、わが国では140兆円もの財源が必要になる。そんな財源はどこから来るのだろうか。だれが負担するのだろうか。

突き詰めて考えていくと、今後わが国の付加価値を生み出す主体がAIである以上、そこに課税するしかない、ということになる。

次回は、「AIに課税する」ということの意義やその方法について考えてみたい。

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