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連載コラム「税の交差点」第16回:(書評)対極的な米国社会の断面が見せる実相

May 30, 2017

【書評】
ジェイン・メイヤー著、伏見威蕃訳『ダーク・マネー――巧妙に洗脳される米国民』(東洋経済新報社、2017)
J.D.ヴァンス著、関根光宏、山田文訳『ヒルビリー・エレジー――アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社、2017)

世界を驚かせたトランプ大統領の誕生だが、その背景を知りたいと考えて、米国著者のジェイン・メイヤー著『ダーク・マネー』とJ.D.ヴァンス著『ヒルビリー・エレジー』を読んでみた。前者は、いわゆるエスタブリッシュメントの話で、後者はプアホワイトの中の最下層の話で、対極的な米国社会の断面をそれぞれ異なる切り口で描いている。

『ダーク・マネー』は、米国社会システムが「1%が99%を支配するオリガキー(寡頭制)」であること、その理由として、1%の金持ちが、政治家だけでなく、シンクタンク、大学、マスメディアなどに幅広く資金を供与し、外部からは見えない金(ダーク・マネー)となり、米国の世論を操作し、自らの利益になるように政策を誘導していることを、多くの関係者へのインタビューをもとに描く。

米国屈指の金持ちであるコーク兄弟やメロン家が、プライベートファウンデーション(私的財団)という隠れ蓑を利用して、ヘリテージ財団、ケイトー研究所、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)などの保守系シンクタンクを創設し、そこを通じて、リバタリアンの政策を実現していく。彼らの核心思想は「小さな政府」で、低所得者向けの社会保障費を削減し、自分たちの所得や富を減税するというもので、利己主義の塊であることがわかる。

一方『ヒルビリー・エレジー』は、ヒルビリー(田舎者)といわれるプアホワイトの最下層ともいうべき人々や、そこから抜け出すためにブルーワーカーになり中流生活を始めるのだが、製造業の衰退・移転に伴い中流から滑り落ちるラストベルトの人々が描かれている。もっとも筆者は、そこから抜け出して、イェール大学ロースクール、弁護士を経て、シリコンバレーで投資会社を経営する成功者になる。

ヒルビリーと呼ばれる最下層の白人たちは、「もっとも許せないのは、手厚い社会保障を受けながら働かない奴らだ」「フードスタンプ(日本でいう生活保護)を悪用して、遊んでいるやつらだけは許せない」という認識を持っている。つまり、既成の労働組合や社会保障制度の中で必死に働かなくても食っていける社会制度そのものへの反発があり、それが民主党批判・エスタブリッシュ批判、ひいては共和党支持になっていくのである。

所得再分配政策やオバマケアなどの政策をほとんど理解・評価しようとしないヒルビリーと呼ばれる社会層が存在すること、これがトランプ大統領を生み出すエネルギーの一つとなったということであろう。

こうしてみてくると、米国の社会は修復不可能な形に幾層にも分断されていることがわかる。黒人と白人、エスタブリッシュメントとプアホワイト、ラストベルトとヒルビリー、この分断された社会において何らかの解決の糸口を見つけるのは難しい、というのが実感だ。

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