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連載コラム「税の交差点」第18回:「骨太方針」に欠ける「所得再分配」―アベノミクスの限界

June 19, 2017

6月9日に閣議決定された「骨太方針2017」には、44ページにわたってアベノミクスの施策が羅列されている。各省にとっては、ここに書かれてはじめて予算要求など具体的な施策に結びつくので、「記載されることに価値がある」ということなのか、内容は実に雑多で総花的だ。

しかし、「骨太」には決定的に欠落している政策がある。それは「所得再分配政策」という視点である。

アベノミクスのキーワードの一つは、「成長と分配の好循環」である。「骨太」にも「働き方改革による成長と分配の好循環の実現」の項が存在する。

内容を読むと、「生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る成長と分配の好循環の構築にもつながる」と記述されている。

この、企業から雇用者への分配というのは、一時的分配、つまり、市場メカニズムを通じて分配された所得(一時分配)のことで、経済全体の生産性を向上させ、雇用者の分配を増やすことの重要性、必要性は誰も異存はない。

しかし、国家・政府の役割は、そこからである。

負担にもうすこし余裕のある者からそうでない者に、所得を「再分配」する政策を行わなければ、成長の成果は均霑しない。つまり、口を開けて見ているだけでは、トリクルダウンは起きない。

アベノミクスは、「生産性向上の成果を分配するのは企業である」という、市場メカニズムを通じて行われる一次的所得分配でストップしているのである。

家計調査でわが国の資産・所得分布をみると、中間層の崩壊・二極分化が顕著に表れている。円安による企業収益改善が賃金や設備投資の増加につながり、中小企業や地方経済に波及する「成長と分配の好循環」は生じていない。中間層の崩壊は、欧米諸国で見られるように、健全な世論形成を阻害し社会の分裂を招く恐れがある。

「骨太」をさらに読み進めていくと、所得再分配について、最後の章の「税制の構造改革」の中で、「所得再分配機能の回復を図るためには、税制、社会保障制度、労働政策等の面で総合的な取組を進める必要がある。個人所得課税については、所得再分配機能の回復・・等を目指す観点から、引き続き丁寧に検討を進める 」という、極めて抽象的な表現が出てくる。

そしてその具体策については、「政府税制調査会におけるこれまでの議論等を踏まえ」というだけである。

アベノミクス、その経済政策を仕切っている経済財政諮問会議や経産官僚にとって、所得再分配政策はプライオリティーの低い政策だ、ということでもある。

昨年の配偶者控除見直しの議論を振り返ると、「全面改組」する予定が、「配偶者控除の適用拡大」という逆方向での決着に終わった。これをみても、安倍政権がいかに税制や社会保障の改革を避けてきたかということがわかる。

アベノミクスが5年間、さまざまな経済対策を講じても、異次元の金融緩和を続けても、ほとんど効果がない(成長しない)のはなぜか。

最大原因は、若者を中心に将来不安が生じており、所得はそこそこ伸びても、消費に回そうという気持ちにならない。将来不安が人々の勤労意欲にも悪影響を及ぼし、労働生産性の低下、ひいては潜在成長力の低下を引き起こしていることではないか。

「国民の社会保障や負担をどうすべきか」という視点が欠けており、国民には将来不安が付きまとう。

若者・勤労者の将来不安を少なくすることで、将来への希望も持てる。安心して働くことで潜在成長力も向上する。ここに焦点を当てた所得再分配政策がアベノミクスには決定的に欠けているのである。

「働き方改革」も、それを裏付ける税制や社会保険・社会保障があってこそ成立する。女性や高齢者の勤労意欲をそぐような税制や社会保障制度の見直しこそ必要な施策である。

国民が財布のひもを緩める、つまり国民が感じている将来不安を軽減するには、どうしても財源が必要となる。すでに2度引き延ばした消費増税を先延ばしにしない勇気が必要だ。国・政府自らが政治リスクをとって、税制や社会保障の改革という構造的な問題に手を付けない点に、アベノミクスの限界が見て取れる。

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