8月25日付朝日新聞朝刊は、社会保険料を上乗せして幼児教育と保育の無償化にあてる「こども保険」を提唱している自民党の小泉進次郎議員が、新たな財源として企業経営者に「年金返上」を呼びかけ始めたことを報じている。すでに複数の企業経営者が返上に応じたという。
返上を求める理由としては、年金を必要としない富裕高齢層に年金返上を求めることは、「子育ての費用を全世代が分担することで支えあう社会を作るためだ」と説明している。
この考え方に、筆者は強い共感を覚える。
シルバー民主主義から脱却し、今日の日本の最大の課題である少子化対策へシフトし、あわせて国の基礎となる、幼児からの教育を充実させることは、国民だれもが共感する提言だ。
しかし、もう一歩踏み込んだ提言を行うべきではないか。
消費増税の話をすべきというのではない。本来消費増税で賄うというのが正論であることは、新聞の対談で、サントリーホールディングの新浪剛史社長が主張されているとおりであるが、消費増税は高度に政治的な判断なので、ここでは「富裕高齢者」への負担増の方法について、掘り下げてみたい。
筆者の考え方は、「こども保険と富裕高齢者への所得増税」の組み合わせがベストではないかと思っている。
では、「富裕高齢層に対する所得増税」は具体的にどのように行うのか。
第1に、富裕高齢者のもらう年金への課税強化、つまり公的年金等控除の縮減・見直しである。小泉議員の言う「年金返上」では甘い。
給与所得のある年金受給者は、給与所得控除と公的年金等控除の二重控除が適用され負担が低くなっている。もともと年金と給与所得は同じ所得区分であったわけで、これを一本化することは理屈上も間違ってはいない。65歳以上の就労者が多くなっている中で、余裕のある高齢者にさらなる負担を求めることは決しておかしくない。
もう一つ、現在公的年金等控除は、1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金の公的年金を超えて、3階部分の私的年金にも適用されている。これを廃止するのである。「公的年金等控除」の「等」を取って「公的年金控除」とするのである。これが本来の趣旨である。これは、通常の年金受給者には影響はない。
2番目に、大部分が高齢者に帰属する利子・配当・株式譲渡益などの金融所得に対する分離税率の引上げが考えられる。現在の20%の税率を、5%程度引き上げれば、3000~4000億円程度の財源は確保できるはずだ。
もっとも、株式市場への影響が懸念されるので、新たな個人年金制度の創設(TEE型の日本版IRA)など、これまで各所で提言されてきた老後の自助努力を支援する制度の創設と合わせて行えば、市場の活性化にもつながり、株式市場への影響は少ないだろう。
「日本版IRA」に関する金融税制・番号制度研究会の提言は、http://www.japantax.jp/teigen/file/20151116.pdf から入手できる。
少子化は、シロアリのように社会保障の劣化を招き、教育の機会の不平等は階層社会を招く。保険と所得増税を組み合わせ、勤労世代と富裕高齢層が子ども・子育て・教育の費用を負担する仕組みを、早急に合意する必要がある。