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米国民主党ウォーレン議員提案の富裕税、わが国への影響はあるか - 連載コラム「税の交差点」第66回
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米国民主党ウォーレン議員提案の富裕税、わが国への影響はあるか - 連載コラム「税の交差点」第66回

August 30, 2019

エリザベス・ウォーレン上院議員は、米国大統領選挙の民主党候補者指名争いで、学生ローン支払い免除、医療制度改革などの財源として、今後10年間で3兆億ドル(毎年30兆円超)規模の富裕税の導入を主張している。

納税者は超富裕層で、純資産が5000万ドル(約50億円)を超える部分に1ドル当たり年2%、10億ドル(約1000億円)を超える部分については1ドル当たり年3%の税率で課税するという。対象となる世帯は、7万5000世帯という。

このウォーレン案に対して、ジョージ・ソロス、アビゲイル・ディズニーなどスーパーリッチ18人が「アメリカの0.1%の富裕層に課税」することを支持する、と賛意を表すレターを発出している。

富裕税を導入し財源を確保し(政府の規模を大きくし)、同時に格差社会への対応も行うという、いかにも民主党らしい考え方が、プライマリーを通しての話題になれば、米国中を巻き込んだ大きな議論になることも予想される。

欧州でも、富裕税の議論は、ポピュリズムの蔓延する中、財源不足に悩む各国にとって、政治的に飛びつきやすいテーマである。例えばスペインでは、2008年に廃止された富裕税を2011年から復活させた。大義は財政収入の確保だが、大金持ちへの増税なら政治的にも反対が少ないという事情もあり、2000億円程度の税収増となっている。

また欧州のシンクタンクからは、「European Wealth Tax」が提言されている。内容は、純資産が100万ユーロ(約1億2千万円)を超える者には1%、500万ユーロ(約6億円)を超える者には1.5%の税率をEU全体で課すというもので、GDPの1.5%、1562億ユーロ(約17兆円)の税収が得られるという。影響を受けるのは全家計の4.8%で、資産がEU域外に逃げないような情報交換ネットワークの導入とセットで提言されている。

 

火をつけたのは、2013年に発売されたピケティーの『21世紀の資本』である。彼は書物の中で、資本税(Capital Tax)なるものを提案した。「100万ユーロを超える金融資産、不動産の合計(時価評価)から負債を差引いた『純価値』を課税ベースとし、1%、2%というような累進税率」という内容である。累進税とするのは、不公平の是正だけでなく、資産の規模に応じて収益率も変わる(規模が大きいほど収益率も大きくなる)ことを理由に挙げている。

その前提として、タックスヘイブンを含んだ資産情報の透明性の確保が必要と述べている。この点、リーマンショック以降、OECDを中心に情報交換は加速しており、わが国も含めた自動的な情報交換が始まっている。

一方、富裕税については、多くの課題、デメリット、反対論がある。その証左に、90年代ごろまでドイツやフランス、スウェーデンなど多くの国で富裕税が導入されていたが、ドイツでは1997年に、スウェーデンでは2007年に廃止された経緯がある。

フランスではいまだ存続しているものの、マクロン大統領は、富裕連帯税の大幅な縮小を行った。もっともこれが、今日まで続く「黄色いベスト運動」に火をつけた。

では、どのような課題があるのだろうか。

第1は、資本移動が自由化されたグローバル経済の中、先進諸国間でいまだ税の引下げ競争が続く状況下での富裕税の導入は、資本の国外逃避を招くだけだ。富裕層は資産を海外に移して隠すだけだ、という批判である。実際、欧州諸国で富裕税が縮小した原因は、資本移動の自由化の下での富裕税逃れの資本逃避が続いたことである。

第2に、金融資産から得られる金融所得には所得税がかかっており、さらに資産そのものに税金をかけるのは二重課税だという批判である。勤労所得に課税し、税引き後の資産運用からの所得にも課税し、さらに保有資産そのものに課税するのは3重課税だという意見さえある。

仮に、富裕税をフローの金融所得に対する税に換算すると、資本収益率が5%で、それに対して3%の富裕税を課すと、資本収益に対する税負担は60%を超える(100×1.05×0.03÷5=0.63)ともいえる。

また、納税者が納税のためのキャッシュフローが確保できなくなれば資産を手放さざるをえなくなり、資産価格が大きく低下するという懸念もある。いずれにしても、富裕税は資産価格に大きな低下・混乱をもたらすという反論である。

第3に、資産の評価は容易ではなく、課税側に膨大なコンプライアンスコストがかかるという課題もある。わが国でも、戦後シャウプ勧告に基づき財産税(富裕税)が導入されたが、主として執行上の問題から廃止された。

 

このような課題があるにも関わらず、米国では、大きな議論となる特殊な理由がある。それは、「上位1%の富裕層が全米総資産の4割弱を保有する」状況が続き、株高の恩恵がもっぱら超富裕層に偏るという米国の状況である。

加えて米国には、コーク兄弟に代表されるように、超富裕層が政治権力と結びつき、社会思想にも大きな影響力を及ぼしている。

石油業で財を成したコーク兄弟が、政治家、シンクタンク、大学、マスメディアなどに幅広く資金を供与し、米国の世論を操作し自らの利益になるように政策を誘導している実態は、『ダーク・マネー』(ジェイン・メイヤー著、東洋経済新報社)に克明に書かれている。

保守系シンクタンクであるヘリテージ財団、ケイトー研究所、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)などは、コーク兄弟やメロン家が、プライベートファウンデーション(私的財団)という隠れ蓑を利用して創設したもので、そこを通じて、リバタリアンの政策が実現されていく。

幸いわが国には、そのような権力と直接結びつくような「富」「超富裕層」は存在しない。その意味では、米国の議論が直接わが国に影響を及ぼすとは考えられない。

一方で、所得・資産格差の方は、わが国でも確実に拡大している。わが国の所得再分配政策を弱くしている原因の一つが、金融所得に対して、最高税率よりははるかに低い税率で一律課税している金融所得課税にある。政府税調でも、党税調でもそのことは認識されているので、まずはこのあたりから議論が始まるのであろう。

 

この点については、「税の交差点」第61回「平成の税制を振り返る(第3回)所得再分配機能の回復」を参照いただきたい。

 

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