2度の延期を経て、ようやく消費税率が10%に引上げられる。最初に法律で決まった際には、2015年10月であったから、4年遅れの引上げである。
この機会に、改めて消費税の税制としての意義、メリット・デメリットを考えてみたい。わざわざ「税制として」と断るのは、増税の是非を議論するのではなく、所得税や法人税、相続税などと比較して議論をするという意味である。
まず消費税の経済的な意義である。消費=所得―貯蓄(恒等式)なので、消費を課税ベースとする税制のメリットは、貯蓄が課税ベースから外れること、つまり貯蓄優遇(促進)税制ということである。高齢化を迎えて、経済成長に欠かせない資本が貴重になる今日、貯蓄を優遇することは重要である。しかし反面、消費を抑制するというマイナスがある。消費税が嫌われる最大の原因はそこにある。
第2に、哲学的な公平性である。所得は自ら労働をして稼得することから得られる。そこに課税すること(所得税)は、社会には有用な勤労を罰する効果を持つ。一方で消費は、ものやサービスを費消しながら自らの欲望を満たす行為なので、そこに課税することについては、社会的な公平性がある。
第3に、人間の一生をとれば、生涯所得=生涯消費なので、どちらに課税しても大きな変わりはないといえよう。しかし、所得のある勤労時代にだけ累進税率で課税する所得税より、一生かけて消費する際にフラットな税率で課税し、消費が大きい人に課税が多くなる消費税の方が、負荷が少ない。世代間の公平性やライフサイクルにおける課税の平準化という観点からも優れている。
4番目に、消費税は、輸出先で課税する仕向け地課税である。これは、付加価値税を導入した欧州諸国がそのような制度を導入しているということで、消費税と論理必然性はないのだが、仕向け地課税は、経済に大きなメリットを生じさせる。仕向け地課税は輸出免税となる(国境調整)ので、増税しても直ちに国の輸出競争力を落とさない(トヨタの税抜き輸出価格は増税後も変わらない)ということである。
米国トランプ政権は、ボーダータックスとか、仕向け地主義法人税とかいろいろ提言してきた。どれもうまくいかなかったが、彼らが消費税を「垂涎の的」とするのは、この点(仕向け地課税、国境調整)である。
5番目に、執行面でも、点々流通する取引を、インボイス(税額票)で税を確認しながら仕入れ税額控除して最終消費者に負担を送っていくので、取引間相互にけん制効果が働き、脱税や漏れが極めて少なくなる。アフリカのように、所得税が導入されておらず徴税インフラの整っていない国々でも消費税(VAT)がインボイス付きで導入されているが、このタックスコンプライアンスの良さに理由がある。
最後に、欧州諸国では、税金部分が、コストの一つとして価格に溶け込み、モノやサービスを購入する際は税込み価格(内税)なので、「見えない税」となり、痛税感が少ないということもメリットであろう。この点、わが国では外税方式が許容されている。早急に、本来の「総額表示」一本に戻す必要がある。
ではデメリットはなにか。おそらく逆進性だけではないか。これも、「所得」に対する負担割合で考えるから「逆進」となるのだが、「消費」に対する負担割合は比例的で逆進性は生じない。また、生涯を通じて考えれば、先述のように、生涯所得=生涯消費なので、逆進性はない。
所得税のほかに資産税としての相続税があるのだが、消費税1%相当額にも満たない税収で、わが国の財政再建・社会保障持続性維持の財源としては、柱にはならない(補完にはなる)。
このように見ていくと、今後のわが国の社会保障ニーズの増加とひっ迫した財政状況への対応として、団塊の世代が全員後期高齢者になる2025年までには、消費税率を少なくとも現在より3%程度引き上げておくことが必要になろう。それがなければ、プライマリー黒字も社会保障の持続性も保証されない。
その際の引き上げ方は、12年かけて負担を増やした年金方式を見習う必要がある。厚生年金については、2005年10月から毎年0.354%ずつ引上げ17年度に18.30%となり終了した。国民年金も2005年4月から毎年月額280円引上げ17年度に16,900円となった。
わが国の潜在成長率の範囲内で、毎年1%程度ずつ3年かけて増税していくというような方法が望ましい。今回の軽減税率騒ぎで、小売事業者の多くにレジが導入されるので、このような小刻みの増税に係る事務コストは大幅に軽減されるはずだ。
この道筋を、受益と負担双方で示していくことが、安倍政権の残された仕事だ。