安倍総理は3月14日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策について、「今後も機動的に、必要かつ十分な経済財政政策を間髪入れず講じる。日本経済を再び確かな成長軌道へと戻すため、一気呵成にこれまでにない発想で思い切った措置を講じる」と述べた。
インバウンドの落ち込みや国民の自粛からくる消費の落ち込みで資金繰りが苦しくなっている中小小売店、中小企業への緊急支援、臨時休校で休まざるを得ない子育て世帯(とりわけ休業補償のない世帯)への支援は絶対に必要だ。加えて、金融不安を招かないような流動性の供給など「機動的、必要かつ十分な」支援は可能な限り早く実施すべきだ。
しかし、緊急支援といっても、国民の税金を使う以上、一定の節度を守る必要があると考える。「これまでにない発想」がこの節度を踏み外すようなら問題だ。
第1に、対策はわが国の中長期的な政策と逆行しない、整合性の取れたものにする必要がある。その観点から問題となるのは、消費税の取り扱いである。
3月11日、自民党の安藤裕議員ら有志は、「当分の間、消費税を0%にする」旨の提言を公表した。しかし、消費税は全世代型社会保障の財源の切り札として昨年10月に10%に引き上げられたものである。
消費税引き上げほど政治的エネルギーの必要なものはない。社会保障・税一体改革として引き上げの法律が成立したのが2012年、2度の延期を経て10%となったのは7年後の2019年10月である。一度凍結すれば、政治の論理から考えて、再び10%に戻すには数年単位の年数を要し、その間全世代型社会保障は停滞せざるを得ない。少子化への対応が遅れることの方がわが国経済にとって大きなリスクである。
確かに、消費税は短期的に消費を冷え込ませる効果があることは事実だが、欧州諸国が20%前後の消費税を維持していることからもわかる通り、消費は必ず回復する。一時的なポイント還元制度の拡充ならともかく、出口の困難な消費税凍結策は慎むべきだ。
2番目に、効果的・効率的な税金の使い方を行う必要がある。給付金などの施策は、真に困っているところにピンポイントして行う必要があり、そのためには、マイナンバー(個人番号制度)の活用がカギを握る。
2008年のリーマンショック対策として2009年3月に国民全員に「定額給付金」が配布された。2兆円の財源で、一人当たり1万2千円の給付である。その際、高所得者にも配るかどうか(所得制限を設けるかどうか)が大きな問題となったが、当時はマイナンバーが導入されておらず高所得者・世帯の把握が困難ということで、所得制限を設けず国民全員への配布となった。
現在、マイナンバーは国民全員に付されており、所得情報とも結びついているので、対策の必要のない高所得者・世帯(例えば収入1000万円以上の世帯)を対象から除くことが可能になる。
2009年の定額給付金については、内閣府から「定額給付金は家計消費に どのような影響を及ぼしたか -「家計調査」の個票データを用いた分析」(内閣府政策統括官 平成 24 年 4 月)が公表され、事後検証が行われている。そこには、「定額給付金は、累積で受給額の 25%に相当する消費増加効果を持った」こと、「子どもがいる世帯や、高齢者がいる世帯では、全世帯をサンプルとした場合を上回る消費増加効果がみられた」ことが記されている。
この経験を踏まえれば、国民全員への定額給付は消費嵩上げ効果が低いこと、政治的判断に基づき定額給付を行うという場合でも、子育て世帯や高齢世帯を中心に配布すべきこと、そして例えば収入1000万円以下という所得制限を付け、浮いた財源で必要な者に手厚く配布することが必要だ。
マイナンバー制度は、2015年に税・社会保障・災害という3分野への活用として導入されたが、国民の利便性向上という観点からはほとんど活用されていない。マイナンバー制度による正確な所得の把握は、適切な社会保障政策に欠かせないインフラである。この緊急時に、所得制限を付けた確実な資金の給付手段という活用法を検討・実施することは、その後のわが国の税・社会保障の効率的・効果的な運営に大きなプラスとなる。
新型コロナウイルス騒ぎは必ず収束する。それに従い経済も正常時に戻る。そのことを念頭に置いて整合性のある緊急対策を速やかに講じる必要がある。