大きく変わるマイナンバー制度―マイナポータルの活用で国とつながる安心感を- 連載コラム「税の交差点」第82回

写真提供 共同通信イメージズ  個人番号、金融機関が収集 マイナンバー制度と行政デジタル化に関する作業部会であいさつする菅首相。隣は平井デジタル改革相=11日午後、首相官邸

大きく変わるマイナンバー制度―マイナポータルの活用で国とつながる安心感を- 連載コラム「税の交差点」第82回

2020年1211日、官邸で開催された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」終了後に、「報告書」と新たな「工程表」が公表された。今後所要の手続きを経て正式決定となる。わが国のマイナンバー制度を大きく変えていく青写真なので、以下、「報告書」と「工程表」に従って、今後のマイナンバー制度を展望してみたい。

1. コロナ禍で大きく改善されるマイナンバー制度
2. 「官」「民」「国民」をつなげるマイナポータル
3. 税・社会保障分野での活用例
4. 重要なフリーランスのセーフティーネットの構築
5. 最大の課題は預貯金口座付番
6. 公平で効率的な社会の建設

1. コロナ禍で大きく改善されるマイナンバー制度

マイナンバー制度は2016年から始まったが、国民の評判は必ずしも良いものではない。マイナンバーカードも、取得のメリットが目に見えず、その結果カード取得者が増えない(カード取得割合は国民の20%程度)という悪循環の状況が続いてきた。

メリットが見えない原因の一つは、国民のプライバシーの懸念への対応を優先した制度設計となり、番号の活用範囲が税と社会保障と災害の3分野に限定されたことにある。

またシステムも、使い勝手よりセキュリティを重視したため、政府がデータを一元管理する方式ではなく、関係省庁が持つデータを必要に応じて呼び出し突合する分散管理方式になった。加えて、国や地方がそれぞれ導入しているシステム同士の接合・連携がうまくいかず、縦型の行政組織の下で国民に利便性の高いサービスの提供が遅れることとなった。

こうした問題を認識させたのがコロナ禍である。国民全員に配る特別定額給付金が円滑に支給されず大きな問題となった。その原因は、大きく2つある。一つは給付金の事務がマイナンバー法に記載されたマイナンバー利用事務に該当しないのでマイナンバーの利用ができなかったこと、もう一つは本人の受取口座の確認に手間取ったことである。そこで急きょマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(以下、「マイナンバーWG」)が立ち上がり、マイナンバー制度の抜本的改善に向けて内閣官房を中心に議論が積み重ねられ、このたび「報告書」と、マイナンバー制度の新たな「工程表」が公表されることとなった。

毎月一回の議論には原則菅総理が参加し、それぞれの専門分野での議論が繰り広げられた。筆者もメンバーとしてマイナンバーWGの議論に加わり、マイナポータルの活用と預貯金口座へのマイナンバー付番についての議論を担当した。以下、その2つを中心に、今後どのように変わるのか、可能性も含めて述べてみたい。

2. 「官」「民」「国民」をつなげるマイナポータル

マイナンバー制度は、マイナンバー、マイナンバーカード、マイナポータルという3つのインフラからなる。

マイナンバーは、税と社会保障と災害の3分野に活用が限定され、公平・公正な課税や効果的・効率的な社会保障を目的としている。利用範囲の拡大が課題となっており、2023年からの戸籍情報との連携などが予定されている。マイナンバーの本質は、国民一人一人を識別する手段(ツール)で、それ自体が政策的な意義を持つというわけではない。

マイナンバーカードは、オンラインにおける本人確認の手段で、カードに搭載されたICチップにより、公的個人識別符号を用いてさまざまな電子的な活用が可能となる。いわば「デジタル社会の基盤となる社会インフラ」である。カードに番号が記載されているので、マイナンバーを使うのではという誤解があるがそうではない。したがって3分野に限定した利用制限もなく、民間の知恵によりその活用範囲を広げることができる。

最後は、マイナポータルである。これは、国民一人一人に向けて設けられたWebサイトで、マイナンバーカードをリーダーに読み込ませて、パスワードを入力して活用する。自らの特定個人情報の確認や、行政(「官」)からのさまざまなお知らせを受け取ることができる。加えて、民間送達サービス機能や電子決済機能も備えており、API(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を利用して民間事業者の様々なWebサイトと連携することで、様々な情報の取得や行政への提出等を、オンラインで容易かつ確実に行うことが可能になる。「個人」「政府」「民間」の3者が効率よくつながるサービスが可能となり、今後最も活用が期待されるインフラである。

つまりマイナポータルは、「国民」「政府」「民間」をつなぐ「情報ハブ」で、この活用を進めていくことが、国民に、国や自治体との「つながってる感」を醸成させ、デジタル政府・デジタル社会の下での安心感につながる。また、今回の「報告書」に記述された「デジタル・セーフティーネット」構築に当たっては、マイナポータルが重要なカギを握る。

ではどのような活用が考えられるのか。

3. 税・社会保障分野での活用例

まずは税務申告の簡素化、利便性の向上だ。これはサラリーマンの年末調整と、自ら確定申告する場合の2つの局面に分けられる。

会社等の行う年末調整については、生命保険料控除などのデータを個人(従業員)がマイナポータルで入手し会社に提出する仕組みが今年から始まった。

次に確定申告の簡素化だ。202010月以降、必要な添付書類のデータを一括取得・自動入力してe-Taxにつなぐサービスが始まっている。

具体的には、今後申告に必要な所得控除関連の資料(社会保険料控除証明書、個人確定拠出年金(iDeCo)掛金証明書、給与所得の源泉徴収票など)をマイナポータル経由で入手し、それを直接e-Taxにつなげる仕組が開始される。生命保険料控除や住宅ローン残高証明書、特定口座を通じた株取引の年間取引報告書は2021年分から始まり、引き続き損害保険料控除、ふるさと納税の寄附金控除についての証明書などが予定されている。医療費控除についても、データ連携は2017年度確定申告から始まっているが、2021年9月診察分の医療費からは、医療費通知証明データのマイナポータル連携が実現する予定だ。

このような制度は、欧州諸国で広く導入されている「記入済み申告制度」を念頭に置いたものである。この制度は、税務当局が、給与収入や年金金額、源泉徴収額などをあらかじめ申告書に記入して納税者に送付し、納税者はその内容を確認、必要に応じ修正して税務申告が終了するという便利な制度だ。わが国ではこれを、e-Tax経由の申告の際に、マイナポータル経由で情報を受け取れるようにしたもので、「日本型記入済み申告制度」といえよう。

4. 重要なフリーランスのセーフティーネットの構築

税務申告は基本的に年一回の話で、国民にとってのメリットも限定的だ。より重要なことは、マイナポータルの機能を活用して、国民のセーフティーネットにつなげることだ。今回の「報告書」では、「デジタル・セーフティーネット」と表現している。

喫緊の課題は、働き方改革やコロナ禍で増加するフリーランスやプラットフォームを通じて単発の契約により労務を提供するギグ・ワーカーのセーフティーネットだ。フリーランスは、働き方改革が進んでいく中で、自分の仕事のスタイルで働くことができ、働く時間や場所を自由に選べるなど利点も多いが、収入が不安定でセーフティーネットも十分ではないという問題が、全世代型社会保障検討会議でも指摘されてきた。

この点今回の「報告書」には、「フリーランス等の契約情報のマイナポータルへの登録や、収入情報を仲介プラットフォーマー経由で入手する仕組みについても併せ検討する。」という記述がある。

マイナポータルに契約内容を登録することで、発注元とのトラブルの解消につながる。また仲介プラットフォーマーから収入情報を報告させることは、自ら受け取る収入の管理・記帳を手助けし、e-Taxへの自動転記を通じて申告水準の向上にもつながる。具体的には、たとえばUber Eatsからその配達人のマイナポータルに収入情報を報告させることになる。フリーランスのセーフティーネットを考える上で必要な所得の実態把握が可能となるのである。今後は、欧米で導入されている、中低所得者の勤労意欲を促進する給付付き税額控除の導入も検討に値する。

このように、マイナポータルの活用は、民間の知恵や工夫が生かせる分野である。筆者は、マイナポータルに、個人の生活設計に欠かせない給与情報や年金情報などを集約した個人版家計簿の機能も持たせたり、LINEのような民間アプリとの連携も進めてていけばいいと考えている。いずれにしても、新規事業や雇用の創出など新たなフロンティアを広げていくことが、デジタル・ガバメント、デジタル・セーフティーネットの構築につながっていく。

図表1 イメージ図

5. 最大の課題は預貯金口座付番

マイナポータルの活用拡大を考えていく上で重要な一つに、預貯金口座へのマイナンバー付番(以下、「預貯金口座付番」)という問題がある。マイナンバーの正式名称は、「社会保障・税番号」で、その導入目的は、公平な課税と効果的・効率的な社会保障給付である。公平な課税のためには口座付番は避けて通れない課題である。また相続時や災害時に口座の所在を確認できる仕組みの構築は、われわれ国民にも大きなメリットがある。さらには負担能力に応じた社会保障負担の構築を実施していく上での基礎となるものであり、着実に実現していくことが望ましい。今回の「報告書」は、この点を明確にしている。

コロナ特別定額給付金の受取遅延の主要原因の一つは、給付金の受取口座との連携に時間がかかったことであった。そこで議員立法として、様々な社会保障給付の迅速な受取のために、公金受取口座の国への登録制度の創設を内容とする法案が(「特定給付金等の迅速かつ確実な給付のための給付名簿等の作成等に関する法律案」)国会に提出されたが、臨時国会での成立は見送られた。

一方で、マイナンバーWGでは、受取口座だけではなく、より広範な預貯金口座への付番が必要ではないかという問題意識で議論が進められた。その結果、公金受取口座だけでなく、預金者の同意を前提に、預金保険機構を活用して、広く既存の口座にも付番をあわせて進めていくことが今回の「報告書」に記載された。

つまり、公金受取口座のマイナポータル登録と預貯金口座全般への付番を「セットで一体的に」進めていこうということである。

議論では、預金者に告知義務を課すかどうかという点が問題になった。本来は、諸外国が行っているように、国民に口座付番を義務付ける(預貯金者に告知義務を課す)ことが望ましいのだが、わが国の国民世論、マスコミ、さらには政治の反発も予想され、まずは国民の「同意」を前提にする形をとった。

国民が付番について「同意」を求められるのは原則金融機関の窓口となる。そこで、金融機関は、預貯金者に対して、口座付番のメリットや必要性の説明、さらには付番への懸念に対しての説明などが適切に行えるよう準備する必要がある。

重要なことは、口座付番により国家が国民の口座を管理することになるとか、国民の資産がガラス張りになるという懸念や誤解に対する適切な説明だ。口座に付番したからといって国が国民の口座を法律の根拠なしに勝手に見れるわけではないこと、逆に言えば、法律に基づかなければ預貯金口座内容の照会を行うことはできないという現状は何ら変わるわけではない、という説明が行われることが肝要だ。

口座付番は金融機関にとっても多くのメリットがある。現在紙(ペーパー)で行われている口座照会を効率的にしたり、金融機関において基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)の更新も可能になるので住所変更や改姓の手続きが可能になるなどのコスト軽減につながる。

今後わが国に必要な政策としては、社会保障の肥大化を防ぎ国民負担の増加をコントロールしていくことが重要な課題となる。口座付番が進めば、社会保障負担を、フローの所得だけでなくストックの預貯金・資産を勘案して決めることが可能になり、社会保障の効率化につながる。2015年6月に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太方針2015)では、「医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、実施上の課題を整理しつつ、検討する。」[1]と記述されていたが進捗はしていないので、今後の具体的な検討課題となる。

今回の措置は、口座付番に向けての第一歩である。基本的にすべての口座に付番することが本来の姿なので、今後とも付番の状況を見ながら検討や対応をしていく必要がある。付番が進まなければ、米国などで行っているような、付番がない場合には源泉徴収税率を高くするという措置(裏打ち源泉徴収制度)なども将来的に考えていく必要があるのではないか。

1211日に公表された「工程表」によると、来年の通常国会に政府提出法案として上程され、3年ほどの準備期間を経て実施されることとなる。

図表2 工程表

6. 公平で効率的な社会の建設

消費税率が10%に引き上げられた現在、税制や社会保障の公平性は、ますます重要な課題になっている。効果的な社会保障制度は公平な所得把握を前提として形成される。そのために最も有効なツールがマイナンバー(番号)である。

ただしマイナンバーはあくまで本人確認のための「ツール」である。これを活用していかなる国民のための制度を作り上げていくか、この点がデジタル・ガバメント、デジタル・セーフティーネットの本質である。

この点については512日付税の交差点「ポスト・コロナ、定額給付金を給付付き税額控除につなげ、デジタル・セーフティーネット構築を」を参照ありたい。

新たなデジタル社会の基盤となるマイナンバーカード・マイナポータルといった社会インフラを活用して、様々な制度を構築し、利便性の高い国や自治体のサービスの提供につなげ、あらたなビジネス機会を民間に提供していく。マイナンバー制度を、真に官民共通の社会基盤にするために知恵を出し合うことが、わが国経済社会の活力の保持につながる。

 

(参考)
森信茂樹編著『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社、2015年)

[1] 経済財政運営と改革の基本方針 2015 ~経済再生なくして財政健全化なし~2015630日閣議決定)

森信 茂樹/Shigeki Morinobu

森信 茂樹

  • 研究主幹

研究分野・主な関心領域

  • 租税政策
  • 財政政策
  • 地方財政

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