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消費税アーカイブ第5回 福田政権(後編)
写真提供 共同通信社

消費税アーカイブ第5回 福田政権(後編)

February 1, 2021

【福田内閣】
前編:概論、平成19年9月26日~平成201月3
後編:平成20年1月4日~9月24

福田内閣

平成20年(2008年)1月4日~9月24日

年が明け2008年(平成20年)14日、福田総理は年頭記者会見で、「年金制度はもとより、医療・介護制度や少子化対策など、国民生活の基盤となる諸制度について、安心できるきめ細かな制度づくりを進めるために、今月から社会保障の在り方について検討する国民会議を開催することにいたしました。国民会議には、経営者、労働者、消費者、女性など、各界各層の代表にお集まりいただいて、広い視点から多くの国民が納得する制度を考えていただくことにいたしております。」と発言、社会保障のあるべき姿について国民に分かりやすく議論を行うことを目的として、平成20125日に東京大学教授吉川洋氏を座長とする社会保障国民会議の設立が閣議決定された。
129日に開催された第1回の社会保障国民会議の場で、3つの分科会の設置が決まり、年金・雇用を議論する「所得確保・保障分科会」、医療・介護・福祉を議論する「サービス保障分科会」、少子化・仕事と生活の調和を議論する「持続可能な社会の構築分科会」が設置され、各分科会での議論が開始された。

一方政府部内ではこのころ、道路特定財源の見直しが大きな課題になり、そちらの方に議論のエネルギーが集中していった。

117日の経済財政諮問会議に、「日本経済の進路と戦略」について、内閣府から参考試算が説明された。2011年度に国・地方合わせた基礎的財政収支を黒字化させるという目標に対し、(1)成長戦略の効果が発現した場合、(2)発現せずに、あるいは国際的にも経済の変動があった場合の2つのシナリオについて、(1)「基本方針2006」で定められた歳出削減14.3兆円の歳出削減を行った場合、(2)11.4兆円の歳出削減を行った場合のそれぞれにおける2011年度までの経路を示したものである。「基本方針2006」では平均3%の名目成長率という前提となっているが、この場合2011年度に2.2兆円の赤字が出るという試算となり、これについては、増税か一段の歳出削減を行う必要性が示された。

1月18日、「日本経済の進路と戦略」について閣議決定が行われた。この中で、税制改革として、「税制については、今後、平成16年年金改正法、「基本方針2006」や平成20年度与党税制改正大綱の「基本的考え方」を踏まえ、消費税を含む税体系の抜本的な改革について、早急に実現を図る。」とされた。

91-FU-09-00 日本経済の進路と戦略(抄)―開かれた国、全員参加の成長、環境との共生― 2008年(平成20年)1月18日.

また小泉改革に伴う5年間11千億円の社会保障費の伸びの抑制策が困難であることが認識され、「骨太の方針2006」の見直し論が出始めた。大田大臣は「2008年年明け、そろそろ骨太方針の準備に入ろうというころ、福田総理も町村官房長官も歳出削減計画の維持は『もう無理だろう』とあきらめムードだった」と後述している[1]

福田総理は、ねじれ国会という政治情勢の下で大連立構想を模索したが、成就することはなかった。模索を続けた背景として、大連立のもとで消費増税を選挙の争点から外したいという思惑もあった。また小泉内閣の「骨太の方針2006」に記述された社会保障一律削減(3年目)への党内の抵抗が強いという事情もあった。

1月29日に開催された社会保障国民会議では、社会保障の機能強化を前面にして議論が開始された。この会議の趣旨は、社会保障のあるべき姿を議論して、その必要財源については、民主党も巻き込んで、与野党協議で議論したいという意向があった。この会議の最終報告が行われるのは麻生政権下の114日で、これが「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」(2008年(平成20年)1224日閣議決定)につながっていくことは後述する。

この間、経済財政諮問会議では、税制改革に関する具体的な議論は行われていない。関連する議論としては、48日の会議で御手洗議員から、「経済財政諮問会議では、昨年来…(中略)…選択指標を提示して、基礎年金の負担と給付の在り方について議論を重ねてまいりました。 現在、本件については、社会保障国民会議でも精力的に審議されてはおります が、…(中略)…「骨太 2008」においてもできる限り明確にそのことを書き込むことが必要であると思います」という発言があった。

また520日の会議では、香西政府税制調査会会長が出席、政府税制調査会の検討の現状について「昨年1126日に総理に、諮問に対する答申を提出し、その後は、特に国会での成り行き等を注意深く見ていた。その間、各委員ごとに色々なことを相談し合ってきたが、正式の会合は現在まで開かれていない。…(中略)…税制調査会としては、やはり個別の税目と、全体としての体系と、その両方にうまくつながりがないといけない。…(中略)…今年は既に具体的な問題がいくつもでき上がってきている。したがって、その両方の解決がきちんと整合的でないといけないので、私どももその整合性を保つためには、従来以上に緻密な議論をしなければならないだろうと、覚悟は固めている。話がそれるが、後期高齢者の医療制度改革などについても、あそこまで非難されている。税金の扱いについてもよほど説明をきちんとしないとかえって逆効果になってしまう。非常に御迷惑をおかけすることもあるので、その点は何とか頑張ってやっていきたい。説明をしっかりしてやっていけるような体制で、政府税制調査会を運営していきたい」との説明がなされた。

このように、社会保障国民会議で消費増税も踏まえた議論が行われる中、経済財政諮問会議の場での税制改革議論の進捗ははかばかしいものではなく、「福田カラーの目玉政策から外された諮問会議は、必然的に肩身が狭くならざるを得なかった」[2]

一方党側では、6月11日に財政改革研究会の最終報告書「当面の財政運営について税制の抜本的な改革に向けて」が公表された。
内容は、現行の消費税を全額社会保障給付に充当する社会保障税(仮称)に改組した上で、税率を少なくとも10%程度に引き上げることが必要となる」という中間報告をふまえた刺激的なものであった。

91-FU-11-00 自由民主党財政改革研究会. 当面の財政運営について―税制の抜本的な改革に向けて―. 2008年(平成20年)6月11日.

このような状況下で社会保障国民会議は619日に中間報告を公表、その中では、「社会保障の機能強化」のための改革が描かれ、それを受けて、そのための負担について速やかに国民合意を形成すること、医療・介護の分科会で推計されている将来費用も含めて今後客観的なデータに基づいた議論が不可欠であるとした。

91-FU-12-00 社会保障国民会議. 社会保障国民会議 中間報告. 2008年(平成20年)6月19日.

社会保障充実のための増税という考え方は、「財政規律派」にとって、増税しても社会保障充実に充てられるのでは財政再建は進まないのではないか、と必ずしも歓迎できるものではなかった。しかし、財政再建のために消費増税を進めるという考え方が国民にすんなりと受け止められる状況でもなかった。「社会保障の充実」というコンセプトは、麻生政権を経て民主党の社会保障・税一体改革に引き継がれる。

これらの議論を踏まえて627日、経済財政改革の基本方針「骨太の方針2008」が閣議決定された。記述内容は「人口減少・少子高齢化の下においても、あらゆる世代で広く負担を分かち合い、社会保障をしっかり支える安定的な財源を確保する」と抽象的なものになった。

91-FU-13-00 経済財政改革の基本方針2008(抄)~開かれた国、全員参加の成長、環境との共生~. 2008年(平成20年)6月27日.

ねじれ国会という状況の中で、道路特定財源・揮発油税問題や後期高齢者医療制度などを巡る混乱から求心力を失い、611日には参議院で憲政史上初めてという首相問責決議が可決され、内閣改造を行った。

8月2日、福田改造内閣が発足した。自民党幹事長は麻生太郎氏で、経済財政担当相は大田氏から与謝野氏に交代した。財務大臣は伊吹文明氏で「財政規律派」の布陣となったが、議論する時間は残されていなかった。9月1日に福田総理は退陣を表明、政権を放り出すことになった。税制改革議論は中途半端に終わり、結論は麻生政権に持ち越された。

福田政権は、税制抜本改革について当初、「上げ潮派」の中川秀直氏と「財政規律派」の与謝野馨氏のバランスの上に乗っかっていたが、次第に税・社会保障改革への理解が増していき、「小さな政府」を主張する「上げ潮派」の勢いは低下していった。社会保障国民会議を開催し、受益と負担を併せ考えて国民に選択肢を提示するというアプローチはその後の抜本改革につながるものとして評価できる。


過去の記事はこちら


[1] 大田弘子『改革逆走』(日本経済新聞出版社、2010年)
[2] 清水真人『首相の蹉跌』(日本経済新聞出版社、2009)

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