本日付の新聞報道によると、安倍首相は19年10月からの10%への消費増税を予定通り実施する一方、その使途について、財政再建充当分を少なくし、子育て支援や幼児教育の無償化などにも広げていく「全世代型社会保障」を行うことを、大義名分の一つとして衆院選で民意を問うという。
筆者は、8月22日の本欄(「税の交差点」第24回)で、「民進党代表選、前原氏の経済政策を考える」と題し、氏の主張する、消費税増税分をすべて子育て支援などにあてる「組み換え論」は(ベストの選択とはいえないものの)、「消費増税を忌避し所得再分配政策を怠るアベノミクスへの対抗軸として評価できるのではないか」というコラムを書いたばかりなので、今回の安倍総理の「変身」ぶりには、総選挙の大義名分づくりとは言え、驚かされた。
2017年9月11日付ダイアモンドオンラインに「民進党の『消費増税分を社会保障に』は本来なら与党が言うことだ」との主張を掲載しているので、合わせて参照いただきたい。(外部サイトへ http://diamond.jp/articles/-/141664)
国民が消費増税を理解するには、社会保障目的税という本分に立ち返って、「社会保障の充実に使う」ということで信頼を得ていくことが必要であろう。そしてその使途を、わが国の高齢者偏重の社会保障支出を、優先度の高い少子化対策・教育にシフトしていくことの重要性は大きい。
ただし、評価するためには、以下のことがセットで行われる必要があると考える。
それは、財政再建について、2020年度プライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという財政健全化目標を維持することである。具体的には、社会保障の無駄な部分を切り落とす歳出削減努力の継続や、消費税以外の増収措置を考えることなどである。
増収措置として考えられるのは、比較的負担に余裕のある富裕高齢者をターゲットとした所得税改革である。これは、単に増収を得るという効果だけではなく、世代内・世代間の格差を縮め、有効な所得再分配となり、ひいては経済の活性化につながるという効果を持つからでもある。
具体的な見直しの対象は、年金税制である。
わが国の年金税制は、積立時は社会保険料控除で非課税、運用時も非課税、給付時は課税であるが、高水準の公的年金等控除があり、大部分の年金は非課税となっている。このような甘い年金税制は、世界に類を見ない。日本以外の国では、積立時か給付時のどちらかに、きちんと課税がなされている。
とりわけ問題なのは、年金受給者で勤労所得がある場合には、公的年金等控除と給与所得控除の2つがダブルで適用されること(二重控除)だ。少なくともこの部分は一つに集約する必要がある。
また、控除が、1階・2階の公的年金部分に加えて、3階部分の厚生年金基金部分にも適用されているが、公的年金に限定すべきだ。
公的年金等控除により13兆円の課税所得が漏れている。高所得者だけに増税になるように工夫すれば、数千億単位の増収も不可能ではない。
また、高所得者ほど恩恵をもたらし、1兆円の減収につながる消費税の軽減税率は導入を見送ることも必要だ。10%時に8%の軽減税率を導入することは、いたずらに消費者・事業者・税務当局を混乱させるだけだ。
全世代型の社会保障の中身を具体的に示す必要もある。そうでないと、あらゆる世代にばらまくだけに終わってしまう。シルバー民主主義の下での社会保障の配分・シェアを変えることに重点を置くべきだ。
このような条件とセットであれば、社会保障の充実も、財政再建も、所得再分配も同時に可能になる。