消費税アーカイブ第4回 第一次安倍政権(後編)

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消費税アーカイブ第4回 第一次安倍政権(後編)

【第一次安倍内閣】
前編:概論、平成18年9月26日~12月6日
後編:平成18年12月7日~平成19年9月26日

第一次安倍内閣

平成18年(2006年)12月7日~平成19年(2007年)9月26日

参考試算の公表とインプリケーション

諮問会議は127日の会議で、新中期方針として5年間をめどとする「日本経済の進路と戦略」の策定を打ち出した。その中には歳出・歳入改革と並んで税制改革も項目に挙げられた。この点については、尾身財務大臣から、「現在の諸情勢を勘案すれば、こうした税制改革の本格的・具体的な議論は、来年秋以降に行い、これまでの与党税制改正大綱に示された改革工程に沿って、19年度を目途に税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む。」との資料が提出された。

また5年間の計画の前提となる参考試算を提出する点について尾身大臣から、

前提条件として成長率が高い見通しを立てると、何もやらなくてもいいではないかということにもなりかねない。…(中略)…確実に財政健全化を実現するシナリオを書かなければならないので、…(中略)…かなりのリスク要因も十分踏まえた上で考えていくことを是非お願いしたい。…(中略)…想定する成長率などの前提については、ある程度の幅を持っていただきたい。…(中略)…むやみに楽観的な見通しを立てて、これで大丈夫だということをやると、結果としてうまくいかない可能性がある。

との意見が出され、名目で3%を上回る高い成長率を前提に、増税なしでのプライマリーバランス黒字化が達成可能となるように受け止められることを避けたいという指摘が行われた。
参考試算については、年明けの経済財政諮問会議で示した上で、諮問・答申を行うこととなった。

このころ政権は道路特定財源の一般財源化を巡って迷走を続けていた。また歳出改革の分野では、社会保障や公共事業の歳出削減数値目標の提示に対して担当大臣が消極的な姿勢を見せるなど、歳出改革の年度ごとの工程表づくりは難航した。「閣僚に相次ぎ押し切られて諮問会議が漂流」「改革の司令塔早くも失速」との論評も出始めていた[1]

年が明け2007年(平成19年)、諮問会議の運営について、下野していた竹中前大臣は以下のような批判を行った。

戦略的アジェンダ設定、官僚⾏政の詳細管理、そして政策の整合性確保のいずれにもかかわるのが、経済財政諮問会議である。⾸相を議⻑とするこの組織を改⾰のアンカー(いかり)として積極活⽤することが、今こそ求められている。安倍⾸相⾃⾝は改⾰の続⾏・加速に強い意欲を⽰している。それを⽀える閣僚・補佐官・アドバイザーらが結束し、抵抗する官僚らを超える緻密(ちみつ)さをもって、戦略的にサポートする必要がある。残念ながらアジェンダ設定では現状、新たな戦略が⾒えていない。予算編成を終えた今、六⽉の⾻太⽅針に向けてモメンタム(勢い)を強化することが期待される。[2]

1月18日の諮問会議で「日本経済の進路と戦略」が方針として了承され閣議決定された。その中で歳出・歳入一体改革について以下のように記述され、歳入改革(税制改革)の具体論は封印された。

『成長なくして財政再建なし』の理念の下、経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標に、今後5年間で『基本方針2006』で示された歳出改革の内容を計画的に実施する。それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにする。こうした取組を進め、まずは2011年度(平成23年度)には、国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化させる。
財政状況の厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り均衡を回復させることを目指し、国・地方間のバランスを確保しつつ、財政再建を進める。…(中略)…(2010年代半ばに向けて)国・地方の基礎的財政収支が黒字化する場合においても、利払いを含む財政収支は依然として大幅な赤字と見込まれるなど、財政健全化はまだ道半ばであり、世代間の公平の観点等にも留意しつつ、確実に財政健全化を進めていく必要がある。2010年代半ばにかけては、基礎的財政収支の黒字化を達成した後も、国、地方を通じ収支改善努力を継続し、一定の黒字幅を確保する。その際、安定的な経済成長を維持しつつ、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する。国についても、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す。

税制改革については、

2007(平成19)秋以降に本格的・具体的な議論を行い、2007年度(平成19年度)を目途に税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む。その際、『基本方針2006』で示された歳入改革の基本的考え方や与党税制改正大綱を踏まえるとともに、歳出削減を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対する安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにする」(下線筆者)

と小泉内閣時代の「骨太の方針2006」に回帰する内容となった。

90-AB-04-00 日本経済の進路と戦略(抄)~新たな「創造と成長」への道筋~. 2007年(平成19年)1月18日.

議論となっていた参考試算については、歳出削減と経済成長についてそれぞれ2つずつ、計4通りのシナリオが描かれた。最も楽観的なシナリオは、経済成長率が名目3.9%、実質2.5%という前提で歳出削減も上限いっぱいに行われる場合で、「成長戦略が成功すれば増税がなくても2011年度のプライマリーバランス黒字化は達成できる」という姿になっていた。

90-AB-03-01 内閣府. 日本経済の進路と戦略 参考試算. 2007年(平成19年)1月18日.

この試算に対して尾身財務大臣から、「この試算では、歳出改革を徹底しても、名目成長率が3.9%まで上昇するなど経済環境に相当な条件が整わない限りは、国・地方合計のプライマリー・バランスの黒字化がおぼつかない。…(中略)…19年度政府経済見通しの2.2%程度の名目成長率が続くとすれば、国・地方合計のプライマリー・バランスは、歳出改革だけでは到底均衡し得ないという状況であります。…(中略)…財政健全化についてまだまだ到底楽観できる状況ではないと考えます」との発言があったが、了承された。

この点について大田氏は「2006年度は税収が上昇したため、20071月の推計では、2011年度には1.4兆円の黒字が生じ、増税なしでも財政再建ができる推計になった」と述懐している。その上で「20088月に行った推計では、足元の名目成長率の低迷を受けて3.9兆円に赤字幅が拡大するという推計になった」とも述べている[3]

小泉改革の下、税収は、2003年度(平成15年度)から2007年度(平成19年度)の4年間で7.8兆円増加したが、リーマンショックの2008年度(平成20年度)には2003年度(平成15年度)とほぼ同じ水準に戻った。

安倍総理が初めて税制抜本改革の時期の目途を言及

このような議論を踏まえ126日の施政方針演説は、以下の内容となった。

我が国財政は引き続き極めて厳しい状況です。歳出削減を⼀段と進め、財政の無駄を無くすとの基本⽅針は、安倍内閣において、いささかも揺らぐことはありません。今後とも、経済成⻑を維持しながら、国⺠負担の最⼩化を第⼀の⽬標に、歳出・歳⼊⼀体改⾰に正⾯から取り組みます。将来世代に責任を持った財政運営を行うため、2010年代半ばに向け、債務残⾼の対GDP⽐率を安定的に引き下げることを⽬指し、まずは2011年度には、国と地⽅を合わせた基礎的財政収⽀を確実に⿊字化します。
このように改⾰を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを⾏わないようにしなければなりません。本年秋以降、本格的な議論を⾏い、19年度を⽬途に、社会保障給付や少⼦化対策に要する費⽤の⾒通しなどを踏まえつつ、その費⽤をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を含む税体系の抜本的改⾰を実現させるべく、取り組んでまいります(下線筆者)

このように、安倍総理は施政方針演説の中で初めて抜本改革実現の時期について表明した。

90-AB-04-01 第166回国会における安倍内閣総理⼤⾂施政⽅針演説. 2007年(平成19年)1月26日.

「骨太の方針2007」に向けて

その後「骨太の方針2007」の策定に向けた議論が諮問会議を舞台に行われた。税制議論としては、「骨太の方針2007」に、税制改革の基本哲学を書き込むかどうかという点が問題となった。

大田氏は、経済財政諮問会議の運営責任者として、骨太の方針に税制改革の基本哲学を書き込みたいと考えていたが、4月の時点で政府税調からまとまった基本的考え方が出てこなかったので、民間議員提案を基に「骨太の方針2007」に書きこんだとしている[4]

2007年(平成19年)619日に閣議決定された骨太の方針2007では、税制改革について、「基本哲学」を盛り込み以下の記述となった。

1に、後世代に負担を先送りしないために、財政健全化の一里塚として『基本方針2006』で示された歳出・歳入一体改革を確実に実現する。第2に、基本哲学を踏まえ、抜本的な税制改革を行う。平成19年度を目途に実現させるべく取り組む

「平成19年秋以降、税制改革の本格的な議論を行い、平成19年度を目途に、社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しなどを踏まえつつ、その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む。その際、『基本方針2006』で示された歳入改革の基本的考え方や与党税制改正大綱を踏まえることとする。」

税制抜本改革を「平成19年度を目途に実現させるべく取り組む」という表現は、2007年度(平成19年度)の税制改正大綱と同様の書きぶりになった。このことは、増税なき財政再建とは距離を置き、「財政規律派」や党税調、さらには財務省への配慮がにじみ出た内容となったものともいえる。

注目すべき点は、「骨太の方針2007」では、これまでの歳出・歳入一体改革という表現に加えて、「税と社会保障の一体的設計」という表現も使われたことである。筆者はこのころすでに財務省を退官していたが、大田弘子大臣から対日投資有識者会議の委員を仰せつかり、大田大臣と会談した機会に、「歳出・歳入一体改革はわかりにくい。社会保障・税一体改革に衣替えをした方が国民にはわかりやすい」と進言したことがある。

90-AB-05-00. 経済財政改革の基本方針2007(抄)~「美しい国」へのシナリオ~. 2007年(平成19年)6月19日.

安倍内閣から福田内閣に交代後も大田氏は経済財政政策担当大臣として諮問会議を仕切ることとなるが、回顧録『改革逆走』には、税制改革の議論を諮問会議で行うには党税調の理解・協調が必要で、その後も道を探ったこと、結果として「骨太の方針2007」では「基本哲学」、「骨太の方針2008」では「重点事項」にとどまり、本格的な議論はできなかったことが記されている。また清水真人氏の『経済財政戦記』には、大田大臣の奮闘ぶりが章を設けて詳細に記されている[5]

安倍内閣は年金記録問題などからくる支持率の低下を背景に、政権求心力が急速に低下していった。それとともに、秋口から始める予定の平成19年度をめどにした税制改革の具体論の議論の機運は薄れていった。

2007年(平成19年)827日、内閣改造が行われ、麻生幹事長、与謝野官房長官という布陣になったが、9月26日、安倍総理の健康上の理由による辞任をもって第一次安倍内閣は終了した。2007年(平成19年)秋以降本格的に議論するとしていた税制改革議論は議論されることなく、次の内閣に持ち越されることとなった。

 


[1] 清水真人『経済財政戦記』(日本経済新聞出版、2007
[2] 2007年(平成19年)15日日本経済新聞「経済教室」
[3] 大田弘子『改革逆走』(日本経済新聞出版、2010年)
[4] 大田、同上
[5] 清水、前掲書には第12章「大田弘子の狭き道――「増税なき財政再建」の虚実」と章立てされている

森信 茂樹/Shigeki Morinobu

森信 茂樹

  • 研究主幹

研究分野・主な関心領域

  • 租税政策
  • 財政政策
  • 地方財政

研究ユニット

税・社会保障改革ユニット