連載コラム「税の交差点」第53回:どう考えてもおかしいポイント還元5%は中止すべきだ | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

連載コラム「税の交差点」第53回:どう考えてもおかしいポイント還元5%は中止すべきだ

December 7, 2018

消費税率引き上げの経済変動対策として、ポイント還元5%が検討されている。中小の店舗でキャッシュレス決済すると支払い代金の5%を、増税時の2019年10月から2020年夏の東京オリンピック前の9か月間還元するというものだ。

いまだ詳細は公表されていないが、対象となるのは、中小企業基本法で定義された中小事業者といわれている。同法では、小売業は、「資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人」ということである。

そもそもこのアイデアは、安倍首相直々のものだが、「還元率が5%」というのは、驚きだというだけでなく、実に様々な問題を惹起する。以下問題点を取り上げてみた。

第1に、ポイント還元の対象になる店とならない店との競争条件を大きくゆがめることになる。町の商店街のことを言っているのではない。大手コンビニチェーンは、小規模の個人商店からなるフランチャイズ(FC)が多いので、加盟店は5%還元の対象になる。FC本部の直営店は対象外となるが、本部がポイント還元分を負担するので、結局すべてのコンビニが対象となる。

そうなると、10%(食料品は8%)で販売せざるを得ない競合大手スーパーは太刀打ちできなくなる。あるいは彼らが必死で競争すれば、またまた経済はデフレに舞い戻りかねない。さらには、転嫁をさせない「下請けいじめ」も大量発生が予想される。

第2に、これでは何のための増税なのかという政策不信を招いてしまう。子育て世代を中心とした全世代型社会保障に回るはずの資金が、コンビニのポイント還元に回るのでは、「社会保障の充実のためなら増税やむをえないか」と考えている国民の感情を逆なでしかねない。

第3に、消費者にとっては、どの小売店がポイント還元の対象の店なのか容易に判別できない。多くの店舗が入った百貨店やショッピングセンターでは店ごとに適用が異なるので、消費者は混乱する。 最大の問題は、9か月後に廃止されるというが、その際には消費税率が実質的に5%から10%(食料品は8%)に上がることになる。これは5%幅の引上げになることを意味しており、これまでわが国で経験したことがない大きな引上げになる。大きなかけこみ需要と反動減が予想される。それを避けるためにポイント還元を継続、ということになれば、結局さらなる財政負担となりかねない。消費増税の意義はなくなってしまう。

この他にも、そもそも資本金をメルクマールとするのでなく売上をベースにすべきではないか、法律を作って行う政策ではなく、予算措置での対応なので大変不透明な政策になりがち、という問題点もある。

このような小売事業者を相手にした政策は、事業者などの意見・ヒアリングを踏まえてじっくり政策立案すべきだ。総理の思い付きの5%を、周辺の少数の官僚が忖度し、経済実態を知らずに決めたのでは、経済は動かない。

今からでも遅くないので取りやめる(還元率をせいぜい2%にする)べきだ。

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

PROGRAM-RELATED CONTENT

この研究員が所属するプログラムのコンテンツ

VIEW MORE

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム