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消費税アーカイブ第9回 菅政権(前編)
写真提供 共同通信社

消費税アーカイブ第9回 菅政権(前編)

June 1, 2021

【菅内閣】
前編:概論、平成22年6月8日~平成23年1月14日
後編:平成23年1月14日~9月2

概論

2010年(平成22年)68日、菅内閣が誕生した。2010年(平成22年)917日に一次改造が行われ、第一次改造内閣は2011年(平成23年)114日まで続いた。その後の第二次改造内閣は、2011年(平成23年)92日まで続いた。

菅総理は、前職の財務大臣時代から消費増税には前向きな姿勢を取り、税制調査会などで税制改革に向けて検討を進めてきたこともあり、就任直後から消費増税に向けた議論を精力的に進めていった。しかし党内への十分な根回しもなく、唐突に消費税率の10%への引上げを打ち出したことが参議院選挙の敗北をもたらし、ねじれ国会を招いたことで自らの手足を縛ることにつながっていった。

また2011年(平成23年)311日に東日本大震災が発生し、そのための復興財源の問題とマニフェストにない消費増税の議論などから、政権のなかで異論や反論が噴出、民主党の意思決定メカニズムの未整備が露呈し、政権運営は混迷した。

そのような中、税制改革議論については、2010年(平成22年)1214日に「社会保障改革の推進について」を閣議決定し、「社会保障の安定・強化のための具体的な制度改革案とその必要財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進め、その実現に向けた工程表とあわせ、23 年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得た上でその実現を図る(下線部筆者)とした。

この方針等に基づき、更に社会保障と税の一体改革の検討が進められ、2011年(平成23 年)71日の「社会保障・税一体改革成案」(閣議報告)の中で、2010年代半ばまでに段階的に国・地方の消費税率を10%までに引き上げることが決定した。

任期後半にはレイムダック化しつつも、具体的な消費増税の時期や道筋を示したという点に菅政権の功績が認められる。

筆者は、民主党政権誕生前の政権交代マニフェスト作りの税制改革分野において多少なりとも関与し、その後2010年(平成22年)96日から2012年(平成24年)95日までの間、菅政権と野田政権の下で、政府税制調査会専門家委員会特別委員として議論の一端に加わった。その経験も踏まえて改めて菅政権の一体改革議論の経緯を振り返ってみたい。

菅内閣

平成22年(2010年)6月8日~平成23年(2011年)1月14日

菅内閣は、財務大臣野田佳彦氏、官房長官仙石由人氏、党幹事長枝野幸男氏という布陣で始まった。就任直後の2010年(平成22年)618日に、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」を一体的に実現するという内閣の方針を示し、「強い経済」の実現に向けた戦略を示した「新成長戦略」(2010年(平成22年)618日閣議決定、94-KA-00-01)を策定した。

94-KA-00-01 「新成長戦略」について(抜粋). 2010年(平成22年)618.

また622日には、財政の健全化に向けた方針を示した「財政運営戦略」(94-KA-03-00)が閣議決定された。

94-KA-03-00 財政運営戦略(抄). 2010年(平成22年)622.

この中で、我が国の財政健全化目標として、

  1. 国・地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)について、遅くとも2015年度(平成27年度)までにその赤字の対GDP比を2010年度(平成22年度)の水準から半減し、遅くとも2020年度(平成32年度)までに黒字化すること
  2. 国の基礎的財政収支についても、上記と同様の目標とすること
  3. 2021年度(平成33年度)以降も、財政健全化努力を継続すること

との目標(フロー)を設定した。
また、2021年度(平成33年度)以降において、国・地方の公債等残高の対GDP比を安定的に低下させるという残高(ストック)目標も定めた。この内容は自民党案の「丸のみ」であった。

さらにこれらの目標の達成に資するため、2011年度(平成23年度)から2013年度(平成25年度)を対象とする中期財政フレームを策定するとともに、歳入面からの取組みとして、「個人所得課税、法人課税、消費課税、資産課税等にわたる税制の抜本的な改革を行うため、早急に具体的内容を決定することとする。こうした税制の改革により、財政健全化目標の達成に向けて、必要な歳入を確保していく。」との方針が示された。

一方税制議論の方は、622日に専門家委員会のこれまでの議論の概要をまとめた「議論の中間的な整理」(94-KA-02-00)が政府税制調査会に報告された。

94-KA-01-00 平成22年度第2回税制調査会議事録. 2010年(平成22年)622.

94-KA-02-00 専門家委員会. 「議論の中間的な整理」の要約. 2010年(平成22年)622.

この報告においては、所得税などの度重なる減税や景気後退などにより税収が減少する一方、急速に高齢化が進んだことにより社会保障支出が一貫して増加してきたという構造的な要因により、我が国の財政は危機的な状況にあるとの現状認識の下、「相当程度の増収に結びつくよう、個人所得課税、法人課税、消費課税、資産課税等の税制全般にわたる税制の抜本的な改革を行って、『支え合う社会』の実現に必要な費用を国民の間で広く分かち合う必要がある。」との指摘がなされた。
また、社会保障制度とその財源確保との関係について、税制による再分配には自ずと限界があることから、社会保障制度を通じた再分配の役割が重要であり、それを支える安定的な財源を確保するための税制改革が急務であるとし、そのための税目について、「高齢者の急増、勤労世代の減少という将来の見通しを踏まえると、勤労世代に偏って負担を求めるのは困難であり、社会で広く分かち合う消費税は重要な税目である」との考えが示された。

その直後の626日、27日に開催されたG20トロント・サミットには菅総理が出席したが、その宣言の中で、「先進国は、2013年(平成25年)までに少なくとも赤字を半減させ、2016年(平成28年)までに政府債務の対GDP比を安定化又は低下させる財政計画にコミットした」ことが表明された。

また、日本政府の取組みについては、「日本の状況を認識し、我々は、成長戦略とともに最近発表された日本政府の財政健全化計画を歓迎する」と言及された。当時は、ギリシャ等において財政不安が著しく高まるなど、公的債務リスクに対する市場の目が厳しさを増していたことから、各国では市場の信認を確保するため、財政健全化に向けた取組みを的確に情報発信していくことが必要と認識されたのである。

直後に菅内閣は、参議院選挙を迎えた。投開票日(2010年(平成22年)717日)を1か月後に控えた617日、菅直人首相(民主党代表)は、参院選マニフェスト(政権公約)を発表する記者会見で、消費税(当時5%)の増税を含む税制改革について「2010年度内に改革案を取りまとめたい」と表明した。当面の消費税率は「自民党が提案している10%を一つの参考にさせていただきたい」と述べた。

増税が必要な理由として「日本の財政は債務残高が国内総生産GDP)比で180%を超えている」ことを上げつつ、「財政再建に取り組まないと、例えば国際通貨基金(IMF)のような機関に、箸の上げ下ろしまでコントロールされる」との危機感を表明した。

また参院選マニフェストでは、消費税を含む税制改革に関し超党派協議で早期に結論を得る方針を示した。同時に「ある段階まできて難しいということになれば、民主党中心で最終的な案を取りまとめる」とも述べ、民主党単独で改革案を取りまとめる可能性にも触れた。10%とする税率については、「自民党が提案している」(自民党谷垣総裁は直前、消費税率は当面10%とすることなどを盛り込んだ参院選公約を発表していた)以外の根拠は明らかにしなかった。
引き上げ時期に関しては「今の段階で何年度からと言うのは難しい」と指摘した。そのうえで消費税増税の具体案を取りまとめても、実際に税率を上げる前には衆院選で民意を問う手続きを踏む意向も示した。  

突如飛び出した増税宣言は、自民党への抱きつき戦略などと言われたが、その背景については、「第8回 鳩山政権」で述べたように、副総理兼財務相として出席した2010年(平成22年)2月のG7イカルイット財務大臣・中央銀行総裁会議でわが国の財政再建の遅れを認識したことがあげられよう。

もっとも、純粋な財政再建への決意とは言い切れない面もあったとの見方もある。伊藤裕香子氏は、菅首相が「消費税とTPPを持ちだせば自民党も割れるよ」と言っていたことなどを上げ、消費増税を政局運営や選挙に戦術的に使おうと考えていたのではないかと指摘している[1]

結果として、この参議院選挙では消費増税に対して国民の十分な理解を得ることはできなかった。

注目すべきは、選挙中に菅総理が選挙演説で、消費税に関して、「収入が200万、300万とか少ない人には負担が大きくならないように、その分を還付する」という制度の導入に言及したことである。低所得者の範囲はその後400万円まで広がり、発言のブレがマスコミから問題にされた。
この制度は、カナダの逆進性対策としての「給付付き税額控除」を念頭に置いたものであった。そのころ筆者は、民主党の有力政治家に、カナダの制度を説明した一枚紙(94-KA-03-01)を手渡していたが、それが伝わったものと伝え聞いたことがある。

94-KA-03-01 カナダのGST控除の概要.

711日に行われた参議院選挙の結果は民主党の大敗に終わった。大量の落選者が出て参議院は過半数割れとなり、以後ねじれ国会となった。

その後914日に党代表選挙が行われ、消費増税反対を表明する小沢一郎氏と菅直人氏の一騎打ちとなったが、党員やサポーターの支援票から辛くも菅氏が勝利・再選された。代表選では、消費増税について、「消費税をもし変えるときには、必ず国民に信を問います。この夏はまずそのスタートラインに立たせてほしいのです。」と軌道修正を図った。

仕切り直しとなった消費税問題だが、10月から様々な場で議論が再開された。その皮切りとなったのは、106日の政府税制調査会の開催と、1028日の「政府・与党社会保障改革検討本部」の設置である。

106日の政府税制調査会では、2011年度(平成23年度)税制改正に向けた議論が再開され、菅内閣総理大臣より「社会保障改革の全体像について国民にわかりやすい選択肢を提示した上で、その財源をどう確保するかについて、消費税を含む税制全体の議論を一体的に行うため、政府与党で社会保障改革の全体像を検討する場を設ける」旨の方針が示され、あわせて税制調査会専門家委員会に対して、税制抜本改革について、税目ごとに論点の深掘りを行うよう要請がなされた。

94-KA-04-00 平成22年度第3回税制調査会議事録. 2010年(平成22年)10月6日.

さらには1028日に、社会保障改革の全体像について、必要とされるサービスの水準・内容を含め、国民に分かり易い選択肢を提示するとともに、その財源の確保について一体的に議論する場として、内閣総理大臣を本部長として内閣官房長官が主宰し、全閣僚と党の主要幹部がメンバーとなる「政府・与党社会保障改革検討本部」(94-KA-05-00)が設置された。

94-KA-05-00 政府・与党社会保障改革検討本部の設置について. 2010年(平成22年)1028.

このあたりを整理すると以下のとおりである。
最終的な意思決定機関は「政府・与党社会保障改革検討本部」で、その場に、以下の3つの場での議論の結果が報告され、それを集約するという形をとった。

第一の場は、政府税制調査会である。
第二の場は、「社会保障改革に関する有識者検討会」(座長:宮本太郎北海道大学大学院法学研究科教授)」で、社会保障改革の基本的な方向性について理論的な整理を行い、検討本部に提言を行うこととされた。
第三の場は、1013日に与党民主党において立ち上げられた「税と社会保障の抜本改革調査会(藤井裕久会長)」である。

第一の場である政府税制調査会の専門家委員会では、総理からの要請を踏まえ、税目ごとに論点を深掘りする議論が行われた。1019日以降、個人所得課税、資産課税、消費課税、法人課税の順にそれぞれの論点について検討が行われ、122日に、政府税制調査会・専門家委員会から「「税目ごとの論点の深掘り」に関する議論の中間報告」(94-KA-06-00)が報告された。

94-KA-06-00 政府税制調査会専門家委員会. 「税目ごとの論点の深掘り」に関する議論の中間報告. 2010年(平成22年)12月2日.

この報告では、成長と雇用の実現、社会保障改革とその財源確保といった我が国の喫緊の課題に対応するためにも、税制の抜本的な改革は待ったなしであるとして、以下のような税目ごとの論点が提示された。

個人所得課税:所得税については、格差社会に対応するためにも、雇用形態や就業構造の変化も踏まえながら、所得再分配機能と財源調達機能を回復するための改革を進める必要がある。これらの機能を回復するために、高所得者に対して結果的に有利になっている所得控除の見直しなどによる課税ベースの拡大や、税率構造の見直し等を行っていく必要がある。金融証券税制については、個人金融資産を有効に活用し、我が国経済を活性化させるためにも、金融所得課税の一体化に向けた取組みを引き続き進めるべきである。現行の上場株式等の配当・譲渡益に係る軽減税率については、公平性や中立性の観点から問題があり、20%本則税率とすることが適当である。
 
資産課税:相続税の再分配機能・財源調達機能の回復や担税力に応じた課税の確保を図るとともに、被相続人の生前、特に老齢期における社会からの受益を死亡時において清算するとの観点から、基礎控除の水準の調整により、従来より広い範囲に適切な税負担を求めていくとともに、税率構造を見直し、高額の遺産取得者を中心に相応の負担を求めることが必要である。高齢者層が保有する資産をより早期に次世代に移転させ、その有効活用を通じて経済社会の活性化を図るため、贈与税の緩和策を検討する必要がある。但し、贈与税は相続税の補完税であることや、贈与税の過度の緩和は若年層における世代内格差の拡大等につながることに留意が必要である。
 
消費課税:少子・高齢化が急速に進展していることを踏まえると、社会保障制度全般を支える財源を確保するための税制改革が急務となっている。その際、将来にわたって勤労世代に偏って負担を求めることは困難であり、社会で広く負担を分かち合う消費税の役割は益々重要になってくるものと考えられる。所得再分配政策に関しては、消費税の負担のみに着目するだけでは十分でなく、消費税収を社会保障給付に充当することや税制全体による所得再分配効果を勘案してもなお、何らかの政策的配慮が必要かどうかといった観点や、ヨーロッパ諸国並みに消費税率を引き上げるのかどうかといった観点を踏まえて判断すべき問題であると考えるべきである。今後、消費税の充実を期していく上では、消費税制度の信頼を確保していくために、一層の課税の適正化に向けた取組みが求められる。
 
法人課税:今後の税体系を考える上で、成長戦略との整合性や企業の国際的な競争力の維持・向上などの観点から、課税ベースの拡大等を図りつつ、法人実効税率を引き下げる方向での検討が必要である。一方、我が国企業の置かれた現状に鑑みれば、設備投資や雇用・賃金の増加、海外移転抑制等に結びつかないのではないかとの意見があった。課税ベースの拡大に当たっては、租税特別措置をできる限り縮減していくことが適当である。また、法人税法上の制度についても、前例にとらわれない検討が必要である。当面する税制改正に当たっては、課税ベースを拡大しつつ法人実効税率を引き下げる選択肢と、政策税制措置の重点化を行う選択肢がある。前者については、税制の簡素化等が図られる、雇用確保につながる労働集約型・知識集約型の産業等にも公平な税制度となる等の意見があり、後者については、限られた資源を成長戦略分野に集中することにより、短期的・直接的な効果が期待できるとの意見があった。

第二の場である「社会保障改革に関する有識者検討会」では、同年119日以降、社会保障や財政の専門家の視点から一体改革について検討が重ねられ、1210日の「政府・与党社会保障改革検討本部」において、以下の概要の報告が行われた。

94-KA-08-00 社会保障改革に関する有識者検討会報告~安心と活力への社会保障ビジョン~. 2010年(平成22年)1210.

ここでは、社会保障改革と財政健全化の関係について、「社会保障強化だけが追求され財政健全化が後回しにされるならば、社会保障制度もまた遠からず機能停止する。しかし、財政健全化のみを目的とする改革で社会保障の質が犠牲になれば、社会の活力を引き出すことはできず、財政健全化が目指す持続可能な日本そのものが実現しない。社会保障強化と財政健全化は、しばしば相反する課題と見なされるが、実は、この二つを同時達成するしか、それぞれの目標を実現する道はないのである」として、両者を同時に達成していく必要性が強く指摘された。

その上で、社会保障を支える財源については、保険料の主な負担者は現役世代であり、貧困や格差の拡大のなかで保険料負担の逆進性も問題になっていることを踏まえ、保険料負担を補完し、また現役世代を支援するサービスを強める財源としては、特定の世代に負担が偏らず広く薄く全世代が負担し、景気変動によって税収が左右されにくい安定性があり、更に、できる限り経済に対して中立的な負担であるといったことを総合して、消費税を基本に考えていくべきであるとの考えが示された。

また、消費税の使途については、「中期プログラム」や平成21年度税制改正法附則第104条において示された考え方を発展させ、「消費税を社会保障目的税とすることも含め、区分経理を徹底するなど、消費税の使途を明確化するべき」と指摘された。さらに、消費税のいわゆる逆進性の問題については、「消費税収を再分配効果の高い社会保障給付に充てることによって、逆進性は解消される。もちろん、社会保障の機能強化と税制改革の一体的な推進にあたっては、貧困や格差にかかわるデータに細心の注意を払い、給付と負担のバランスが維持されていくように適宜調整をおこなう必要がある。」として、消費税の負担のみに着目するのではなく、消費税収が充てられる社会保障給付による再分配機能も含め、給付と負担全体のバランスの中で検討していくべきであるとの考えが述べられた。

第三の場である「税と社会保障の抜本改革調査会(藤井裕久会長)」からは、126日、「税と社会保障の抜本改革調査会「中間整理」」(94-KA-07-00)が、報告された。

94-KA-07-00 民主党. 税と社会保障の抜本改革調査会「中間整理」. 2010年(平成22年)12月6日.

「中間整理」では、社会保障とそれを支える財源との関係について、消費税収(国分)を充てることとされている高齢者3経費(年金、高齢者医療、介護)に対し、国分の消費税収では大きな財源不足が生じており、今後も高齢化の進展などにより不足分は更に拡大していくことが見込まれる中、将来にわたり社会保障制度を安定的に運営していくためには、まずは早急に財政構造を安定・強化していくことが必要であるとして、「『現在の世代が受ける社会保障は、現在の世代で負担する』状態へ回帰させるために、できるだけ速やかに税制と社会保障制度一体での具体的な改革案を示し、財政健全化にもつなげる」必要があるとの考えが示された。
その際、財源については、「社会保障全体の財源は税制全体で確保していくが、その中でも『国民全体で広く薄く負担する』『安定した税収』という特徴を有する消費税は非常に重要である。『公平・透明・納得』の税制を築き、社会全体が支え合う新しいモデルを構築していくためには、およそ所得税改革だけでなし得るものではなく、消費税を含む抜本改革に政府は一刻も早く着手すべきである」として、消費税により対応することの必要性について言及された。
また、消費税の引上げを提起する場合には、「国民の理解と納得を得るためにも、消費税を社会保障の目的税とすることを法律上も、会計上も明確にする」とともに、その使途について、「まずは高齢者3 経費を基本としつつ、現役世代のセーフティネットの安定・強化についてどこまで対象とすることが適当か、検討を行っていく。将来的には『社会保障』全体について安定財源を確保することにより、制度の一層の安定・強化につなげていく」との考えが示された。
なお、消費税率の引上げに伴う低所得者対策については、「消費税率が一定の水準に達し、税・社会保障全体の再分配を見てもなお『逆進性対策』が必要となった場合には、制度が複雑となり、また政治的な要因が働きやすい『複数税率』よりも、制度が簡素で、透明性の高い『還付制度』を優先的に検討する」との指摘がなされた。

これら3つの報告を受け、「政府・与党社会保障改革検討本部」は、「社会保障改革の推進について」(94-KA-09-00)を決定した。

94-KA-09-00 社会保障改革の推進について. 2010年(平成22年)1210.

内容は、政府・与党はこれらの報告書の内容を尊重し、「社会保障の安定・強化のための具体的な制度改革案とその必要財源を明らかにするとともに、必要財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進め、その実現に向けた工程表とあわせ、23年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得た上でその実現を図る。(下線、筆者)というもので、翌年(平成23年)の半ばまでに社会保障と税の一体改革の成案を得るとの方針を明確にし、その内容がそのまま1214日に閣議決定された。(94-KA-10-00

94-KA-10-00 社会保障改革の推進について. 2010年(平成22年)1214.

この間、平成23年度税制改正についての議論が政府税制調査会で行われ、1216日に「平成23年度税制改正大綱」(94-KA-11-00)として閣議決定された。

94-KA-11-00 平成23年度税制改正大綱(抄). 2010年(平成22年)1216.

同大綱では、我が国の経済・社会の構造変化に対応し、成長と雇用の実現、社会保障改革とその財源確保といった我が国の喫緊の課題に応えるために税制の抜本的な改革を果断に進める必要があると指摘し、2011年度(平成23年度)改正においては、「デフレ脱却と雇用のための経済活性化」「格差拡大とその固定化の是正」「納税者・生活者の視点からの改革」「地方税の充実と住民自治の確立に向けた地方税制度改革」を4つの柱と位置付け、税制抜本改革の一環として位置付けられる改正項目も含め各税目にわたる改正を行うこととした。
具体的には、①個人所得課税の諸控除(給与所得控除、特定支出控除、成年扶養控除)の見直し及び退職金課税の見直し、②法人税の税率引き下げ(法人税率30%→25.5%)及び課税ベース拡大、③相続税の控除及び税率等の見直し並びに贈与税の税率構造の緩和及び精算課税の対象の拡大、④「地球温暖化対策のための税」の導入としての石油石炭税の税率の上乗せなど、「中期プログラム」や平成21年度税制改正法附則第104条で検討の方向性が示されて以降、議論が積み重ねられてきた各般にわたる改正項目が盛り込まれた。

平成23年度税制改正法案は、2011年(平成23年)125日に国会に提出されたが、参議院で与野党の議席数が逆転するいわゆる「ねじれ国会」の下で、年度内に成立せず、野党側の議員立法により、「国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法等の一部を改正する法律」(いわゆる「つなぎ法」)が制定され、その効力がある6月までの間、与野党三党(民主党、自由民主党及び公明党)で協議が行われることとなった。

2011年(平成23年)114日に内閣改造が行われ、第二次改造内閣が発足、内閣官房長官は枝野幸男氏、財務大臣は野田佳彦氏が留任、新たに社会保障・税一体改革担当大臣が置かれ、与謝野馨氏が就任(経済財政相兼任)した。ここから三党合意に向けて、新たな展開が始まる。また同年311日に東日本大震災が発生、復興財源のあり方を巡って議論は混乱していく。

 消費税アーカイブ第10回 菅政権(後編)に続く


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[1] 伊藤裕香子『消費税日記』(プレジデント社、2013年)

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