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在職老齢年金制度は年金税制とセットで見直しを 連載コラム「税の交差点」第69回
共同通信イメージズ

在職老齢年金制度は年金税制とセットで見直しを 連載コラム「税の交差点」第69回

November 12, 2019

安倍総理肝いりの、全世代型社会保障検討会議(以下「検討会議」)が始まっている。

総理は 「人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、更には現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、医療、介護、労働など、社会保障全般に渡る持続可能な改革を更に検討していきます。」と発言している。しかし伝えられる改革のメニューは、社会保障制度に切り込むものでなく、また負担論は当分行わない意向のようだ。負担と切り離した給付だけの議論では、全世代にばらまく社会保障制度の肥大化につながる可能性がある。

本稿では、政府が発表した骨太の方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)でも「廃止を含めて見直す」とされ、すでに厚生労働省から見直しの具体案が出され大きな議論となっている在職老齢年金制度(以下「在老」)について論じたい。

在老とは、一定以上の収入がある高齢者の厚生年金の一部または全部の支給停止をする制度である。働いて所得を得るほど年金が減額されるので、高齢者の就労意欲をそいでいるとの批判が寄せられてきた。人生100年時代を迎え、意欲と能力のある高齢者の働ける環境の整備は極めて重要なことで、それを抑制する在老は廃止・縮小すべきだというのが政府の立場である。

具体的には、賃金と年金の合計月額が64歳までなら28万円、65歳以上なら47万円を超える人はカットが始まる。日本年金機構の資料では、「働かなければ216万円の厚生年金を受け取れる6065未満の年金受給者が年収360万円(平均月収30万円)で働くと、厚生年金は120万円カットされる」と記されている。
しかし在職老齢年金制度(在老)の見直しには、次のような課題や反論がある。

1に、現行制度が本当に就労を制限しているのか、明確なエビデンスがない、という議論である。この背景には、現行制度が、高齢者の賃金に組み込まれている(在老を考慮して賃金が決められている)という実態があり、在老の適用水準を引き上げた場合、その部分だけ賃金を引き下げやすくする(使用者側の)メカニズムが働くので、高齢者の就労インセンティブには影響しないという意味である。

2に、わが国の世代内所得格差は、高齢世代ほど大きいということが判明しているが、在老の縮小・廃止はそれをさらに拡大することになるという指摘である。

3に、財源論である。2016年度の在職老齢年金による支給停止額は、6064歳で約7,000億円、65歳以降で約4,000億円になっており、廃止すると約1兆1,000億円の給付増になる。縮小にとどまるにしても、それなりの財源の確保が問題となる。社会保険料については、2004年の年金制度改革で、2017年まで段階的に引上げており、さらに上げることは現役世代から理解が得られない。消費税も引き上げられた直後である。

このように様々な異論のある在老の見直しだが、筆者は次のように考える。

高齢者の就労促進が国家的な課題となる中で、在老が月収28万円(65歳未満)、47万円(65歳以上)から発動されるのは、一橋大学教授で東京財団政策研究所 税・保障調査会メンバーである小塩先生が論考で述べておられるように就労を阻害している可能性が高い。

また、企業経営者が、在老を織り込んで賃金を調整するという実態は、制度の趣旨とは異なる本末転倒な話であり、この点は別途是正されなければならない話といえよう。

次に、財源問題である。確かに消費税は引き上げられたばかりであるが、年金税制の見直しという所得税での対応がある。公的年金等控除については、所得税の課税ベースの脱漏や高齢者の世代間公平性の確保といった観点から見直し(縮小・廃止)が指摘されてきた。今や減収額は1.8兆円にも上っており、これを見直して在老見直しの財源とすれば、いわば一石二鳥ともいえる改革ができる。

年金税制の具体的な見直しポイントは、以下の2点だ。

第1に、年金受給者でありながら給与所得を得る者(いわば高所得年金受給者)は、公的年金等控除と給与所得控除の2つを受ける、二重控除となっている。もともと両方は、同じ所得区分であったのが、消費税導入時に、「高齢者かわいそう論」により、年金所得は雑所得に分離され、事実上非課税となった。年金を受給しながら給与所得もある高齢者は、「かわいそうな高齢者」ではない。 

第2に、公的年金等控除の対象となる年金範囲の見直しだ。公的年金等控除は、公的年金(国民年金・厚生年金)だけでなく、企業年金にも適用されるが、企業年金をもらうのは「高所得年金受給者」と考えられるので、企業年金については控除の対象から外してはどうか。 

そもそもわが国の年金税制は、積立時は社会保険料控除で非課税、運用時も非課税、給付時は課税だが高水準の公的年金等控除の結果、大部分は非課税となっている。他の先進国では、積立時か給付時のどちらかに課税がなされており、わが国の世界に類を見ない甘い年金税制は見直す合理的な理由がある。 

在老の縮小に伴うデメリット、つまり追加財源の必要性と高齢者世代内の不公平の拡大は、年金税制の見直しとセットで行ってこそ初めて意義があるといえよう。これこそ税と社会保障の一体的な見直しである。

なおこの問題は、これまで税・社会保障プロジェクトのメンバーの論考でもたびたび取り上げられてきた。3月18日の小塩論考2月25日の西沢論考11月12日の土居論考をあわせて参照ありたい。

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