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【論考】消費税はなぜ嫌われるようになったのか―連載コラム「税の交差点」第141回
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【論考】消費税はなぜ嫌われるようになったのか―連載コラム「税の交差点」第141回

June 1, 2026

■410日に、森信茂樹シニア政策オフィサーは、佐藤主光上席フェロー土居丈朗上席フェロー小黒一正上席フェローとともに、政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」を発表いたしました。詳細はこちらをご覧ください。

「税・社会保障研究 レビュー・論考・コラム」
令和710月より、「税」や「社会保障」をテーマとしたコラム(Review)を、以下の執筆者が交代で執筆してまいります。掲載されたコラムは「まとめページ」からご覧いただけます。
小黒一正(東京財団上席フェロー/法政大学経済学部教授)、佐藤主光(東京財団上席フェロー/一橋大学国際・公共政策研究部教授)、土居丈朗(東京財団上席フェロー/慶應義塾大学経済学部教授)、森信茂樹(東京財団シニア政策オフィサー)

1.消費税食料品ゼロの議論
2.消費税は社会保障財源ということで受け入れられてきた
3.いつから、なぜ消費税減税が政治のアジェンダになったのか
4.消費税は社会保障財源というロジックへの不信感
5.失われた30年の引き金になったという経済政策としての批判
6.どうすべきか

.消費税食料品ゼロの議論

消費税減税が国民会議で議論されている。高市総理が「悲願」とする本年度中の食料品消費税ゼロだが、社会保障国民会議の議論では、事業者ヒアリングなどで消極的な意見が目立つ状況だ。

レジ改修についてシステム会社からのヒアリングでは「全体として改修には1年弱の期間が必要」「SEの不足も予想される」など、本年度中のゼロ税率実施は難しいとの回答だった。消費税が還付になる農家や中小食料品店の資金繰りを手当てする必要があるとの声も出ている。外食サービスと内食との税率格差が開くので大きな影響が出るとの懸念も示された。そもそも税率を引き下げても、事業者の中間マージンに消えてしまって(本体価格が上がって)消費者物価はそれほど下がらないという大きな問題もある。

加えてエコノミストからは、物価が上昇しイラン情勢も見通せない現在、物価対策としての消費税減税を行うことはインフレを加速し逆効果になるなど経済政策としての批判も増えつつある。

しかし、総理は「国民との約束」ということで、たとえ食料品の消費税率が1%としても、断固行う意向のようだ。最大の課題は年間5兆円と言われる減税の財源だが、夏の「骨太の方針」には書かれず、年末の予算編成に先送りされる気配が濃厚だ。すでに補正予算編成が決まり財政悪化懸念から長期金利が上昇しているが、来年度予算には防衛予算の増額も予想され、「責任ある積極財政」の正念場を迎える。 

.消費税は社会保障財源ということで受け入れられてきた

このような消費税減税だが、34年前までは、「所得税減税はあっても消費税減税はない」というのが永田町や霞が関のコンセンサスであった。

消費税の税収はすべて社会保障に充てられることが法律で決められていることもあり、「社会保障の財源としてやむを得ない」と広く受け入れられ、1989年の導入以降30年かけて10%まで引き上げられてきた。リフレ派の安倍元総理も、2度延期し、使途を幼児教育などに拡大し、軽減税率を導入しながらも10%に引き上げた。消費税減税を主張することは一切なかった。

消費税は税制として多くのメリットを持つ。貯蓄から生じる利子・配当・株式譲渡益などに課税する所得税と異なり、貯蓄には課税しないので貯蓄・資本の増強につながる、輸出時には免税となるので国際競争力に影響を及ぼさない、高齢世代も負担する世代間に公平な税、脱税しにくいメカニズムを持つ税など所得税に比べて多くの長所がある。

.いつから、なぜ消費税減税が政治のアジェンダになったのか

この社会の雰囲気を変え、減税論が広がった背景は、大きく以下の3点だ。

最大の理由は、長く続いた「デフレ経済」から「インフレ経済」への変化である。

2022年春以降ウクライナ情勢や円安を背景に、食品やエネルギー価格が急騰、そこから国民の生活困窮がはじまった。長引いたデフレから急激なインフレへの転換、そして実質賃金のマイナスが、国民の我慢の限界を突破させ「消費税は社会保障の貴重な財源」という聖域が維持できなくなったのである。

消費税は物価の上昇を通じて国民に負担を求める税だ。インフレで物品の価格(本体価格)が上がれば、自動的に消費税額も上がり消費者の負担は増える。一方政府の消費税収はインフレタックスという形で増加し、プライマリーバランスは赤字であるが、大幅に改善した。

デフレ経済から脱却し2%を超える物価上昇率を達成した2023年度以降の税収全体と消費税収の推移は以下の通りで、税収はこの3年間で10兆円を上回る伸びとなり、消費税収も毎年1兆円を上回って伸びている。

1:消費税収等の推移

年度

2023

2024

2025(補正後)

2026(当初予算)

税収(兆円)

72.1

75.2

 

80.7

83.7

内消費税収(兆円)

23.1

25.0

25.5

26.7

(財務省資料から筆者作成)

わが国特有の価格表示の問題もある。わが国では総額表示が義務づけられている中で、ほとんどの店では、大きく表示された税抜き価格との併存となっており、総額表示一本の欧州とは異なっている。したがって、消費税分が消費者には手に取るようにわかる。コンビニでパンを買うたび、レシートに「消費税」の文字が刻まれる。

デフレ時代で8%から10%に引き上がった際、ある有名スーパーの社長が筆者に、「値段を両方書く理由は簡単だ。自分たちは一生懸命価格(本体価格)を抑える努力をしてきたが、価格が上がるのは消費税のせいだ、ということを消費者に分かってもらうためだ」と語ったことがある。

.消費税は社会保障財源というロジックへの不信感

2番目の理由は、「社会保障充実のため」という大義名分への疑念、つまり「集められた消費税が本当に社会保障に使われているのか」という不信感だ。消費税が10%に増税された後も、医療費の窓口負担増、年金支給額の実質抑制、雇用保険料の値上げなどが続いていることが疑念を大きくしている。これは高齢化が急速に進展していることが影響しているのだが、国民の理解は追いついていない。

また、法人税の引き下げに使われたのではないか、という言説も広まった。

確かに法人税率はアベノミクスの下で税率が引き下げられ、法人実効税率は20%台に下がった。しかしこの法人税改革は、単なる減税ではなく、「課税ベースを広げつつ税率を引き下げる」という内容で、基本的に税収中立で行われた。現に法人税収は、税率を引き下げてきたにも拘わらず、毎年大幅な増収となっている。

EUでは、冷戦後の先進諸国が一貫して法人税率を引き下げてきたにもかかわらず各国の法人税収の対GDP比が上昇していることを「法人税パラドックス」として前向きに評価している。つまり消費税収が法人税減税に使われたということはないのだが、国民には理解されていない。

さらには財政赤字の穴埋めに消費税が使われているのではないか、という指摘もある。確かにお金に色はついていないから、消費税収の使途を限定してもこのような批判は生じる。

筆者はこのような批判の背景には政府側にも問題があったと考えている。それは社会保障・税一体改革の消費税10%への引上げスキームを分析するとわかる。

消費税率は20144月に5%から8%へ、20199月に10%へと引上げられたが、5%引き上げた際の使途は、いろいろ工夫がされていた。引上げ当時は、「社会保障の機能強化」で3%、「社会保障の機能維持」で1%、引上げに伴う社会保障支出増で1%と説明された。しかし「機能強化」と「機能維持」の区別は国民にわかりにくい。

「社会保障の機能維持」の内容は、赤字国債により補填されてきた基礎年金国庫負担2分の1への引上げ分や、国債でファイナンスされてきた社会保障を税財源で賄うことで「社会保障の維持強化」にはつながらない。

安倍政権下で8%から10%への引上げの際に半分を幼児教育の無償化に充てる使途変更が行われたりした結果、令和5年度消費税増収分の15.6兆円のうち国民が実感する社会保障の充実分は4.0兆円となり、多くが財政再建にあてられた。国民に社会保障の充実感がないのは、このスキームにあるといえよう。

.失われた30年の引き金になったという経済政策としての批判

3つ目は、消費税増税がわが国経済の成長の芽を摘んできた、失われた30年の主因だという主張だ。

3%から5%への引上げ直後に国内金融危機が発生し、8%から10%への引き上げ時にはコロナ禍が発生するなど、増税による経済効果の検証は十分にできていない。また駆け込み、その反動などが経済に大きな悪影響を及ぼしたことも事実である。「失われた30年」の検証が政府で十分に行われていないことが問題を複雑にしている。

筆者は、30年にわたるデフレ期の企業行動に大きな問題があったと考えている。企業は生産性を上げてきたにもかかわらず内部留保としてため込み、賃上げに回さず労働分配率が低下したことだ。背景には、メインバンク制が崩壊し、企業はリスク対応として自ら対応する必要性が生じたことが挙げられよう。

企業の国際競争力を維持するという名目で派遣法を改正するなど、労働市場の規制緩和を進め、労働者側も賃上げより自分たちの雇用を守ることが重要と、企業の防衛論理を受け入れたことなど、様々な問題が解明されないまま、デフレ経済の原因が消費増税だという単純化した言説になっている。政府はこの点をおざなりにして消費税率の引き上げに専念してきた。ここにも、国民の不信の芽が摘まれないまま残っている。

.どうすべきか

このような社会の状況の中で、消費税食料品ゼロを主張する政権が誕生した。野党も、「チームみらい」を除き消費税減税、廃止を主張している。財政ポピュリズムが蔓延する中この状況を変えることは容易ではない。

可能性があるのは、消費税減税の財源を巡ってマーケットが反応することだが、それに頼るのは本筋の話ではない。政府は地道に国民生活の将来不安をなくす施策を続け、「もう一段の社会保障の充実が必要」という時期が来るのを待つしかないだろう。給付付き税額控除の導入、更なる拡充はその役割を果たす可能性がある。

 

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