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【論考】少子化対策、「機会費用」を上回る「収益」(子育ての喜び)の可視化が重要―連載コラム「税の交差点」第144回
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【論考】少子化対策、「機会費用」を上回る「収益」(子育ての喜び)の可視化が重要―連載コラム「税の交差点」第144回

August 27, 2026

■410日に、森信茂樹シニア政策オフィサーは、佐藤主光上席フェロー土居丈朗上席フェロー小黒一正上席フェローとともに、政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」を発表いたしました。詳細はこちらをご覧ください。

「税・社会保障研究 レビュー・論考・コラム」
令和710月より、「税」や「社会保障」をテーマとしたコラム(Review)を、以下の執筆者が交代で執筆してまいります。掲載されたコラムは「まとめページ」からご覧いただけます。
小黒一正(東京財団上席フェロー/法政大学経済学部教授)、佐藤主光(東京財団上席フェロー/一橋大学国際・公共政策研究部教授)、土居丈朗(東京財団上席フェロー/慶應義塾大学経済学部教授)、森信茂樹(東京財団シニア政策オフィサー)

政府はこれまで様々な少子化対策を行ってきたが、合計特殊出生率は一向に改善の兆しを見せず、人口減少が続いている。これまでの政府の各種対策が効果を奏してないと言わざるを得ない。お盆休みに筆者が考えた処方箋を披露してみたい。

まず、少子化の原因だ。これまで未婚化・晩婚化が最大の原因だと言われてきた。しかし「結婚すれば出生率は落ちていない」というのは、「過去の常識」で正しくない。これまで「結婚さえすれば子どもは2人以上生まれる」と言われてきたが、2010年頃を境に構造が変化し、現在は結婚した夫婦の間でも出生率の低下(有配偶出生率の低下)が明確に見て取れる。

国立社会保障・人口問題研究所の調査では、夫婦の最終的な平均子ども数の推移は以下の通りである。

2005年(第13回): 2.09人 (初めて2.1人を下回る)
2010年(第14回): 1.96人 (初めて2人を割り込む)
2015年(第15回): 1.94
2021年(第16回): 1.90人 (過去最低を更新)

有配偶者出生率の低下の原因として新たに指摘されているのが、「女性の機会費用の高まり」という問題である。「機会費用」というのは、出産・育児で稼ぎそこなう費用のことで、キャリアダウンを強く実感している女性にとっては、これが出生率低下の原因となっていると考えられている。女性の高学歴化や男女の賃金格差の縮小などが進むので、毎年「機会費用」は高まっているといえよう。

男女共同参画社会基本法に基づき内閣府が毎年発行する令和5年版男女共同参画白書」(2023年公表)のアンケートから女性の出産後の仕事の変化を見ると、給与や待遇が仕事内容に見合わなくなった、簡素な仕事内容に変わった、など企業側からこれまでとは異なる扱いを受けたことが見て取れる。

女性が出産後に職場復帰すると本人の意向とは無関係に補佐的な業務を割り当てられ、昇進・昇格のルートから外れてしまうことを「マミートラック」というが、これが機会費用を大きくする原因となっている。これを防ぐには、復帰した場合にどのような職務になるのか、育休前に会社側と相談できる機会を持つことが必要だが、現状ではなかなか進んでいない。

筆者は、この問題の解決として、「機会費用」を上回る「収益」が得られればいいのではないか、と発想の転換を考えてみた。キャリアの断絶や収入減によって「目に見える損失(機会費用)」が膨らんでいるのだから、機会費用を上回る「収益」が必要という考えである。

それは、「家族を持ち子どもを産み育てることの楽しさ」だろう。「機会費用」という経済的なマイナスを上回るリターン(収益)は、「子どもを産み育てる楽しさ・精神的豊かさ」ということだ。

問題は、この金銭的な評価が難しいということだ。コスト(機会費用)は「可視化」されているが、子どもの成長の喜びといった「収益」は、家庭の内側の話として閉じ込められており、「不可視化」のままである。そこでこれを可視化するアプローチが必要となる。以下、筆者なりのヒントを考えてみた。

「収益(楽しさ)」を可視化するためには、社会のシステムとして子育ての楽しさを増幅し、仕事のキャリアとの相乗効果を生むような仕組みが必要だ。つまり子育てを、「人間力やマネジメント力を高めるキャリアアップの機会」つまり「収益」ととらえるのである。

具体的には、子育てで得られる育児経験などをスキルとして企業がきちんと評価し、復職後の昇進・昇給にプラスに働く仕組みや人事制度を作ることである。

もう一つ、「子育てロールモデル」を企業やマスメディアが評価することも必要だ。第一線でバリバリ働きながら、子ども・家族と一緒に人生を楽しんでいる女性の姿をポジティブな対象として光を当てる。楽しそうな家族団らんの姿を見せ、それを社会として評価することも必要ではないか。

最後に「子育ての喜びは、年を取るほど多く、複利のように蓄積していく」ということも付け加えたい。筆者には3人の子どもがおり子育ては大変であった。しかしそれが終わった今、孫も加わり家族が増えて皆で集まってワイワイ話す機会は、人生最大の喜びとなっている。「未来へつながっていく喜び」という時間の広がりの中で考えていくことだ。

育児や子育てを「費用」としてしか見ない風潮を改めるということの必要性を書いてみた。

 

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