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「未来の水ビジョン」懇話会5 「料金格差は問題か?−水道をめぐる平等性と公共性−」
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「未来の水ビジョン」懇話会5 「料金格差は問題か?−水道をめぐる平等性と公共性−」

November 25, 2022

R-2022-076

5「未来の水ビジョン」懇話会では、私たちにとって最も身近な水インフラである水道について、潜在リスクと未来への提言について議論を行う。202285日 東京財団政策研究所にて)

1.水道料金は上昇、格差は拡大
2.水道広域化の実態
3.広域化は何をもたらすか?新たなリスクと可能性
4.未来に向けた水道事業

Keynote Speech(概要)

橋本淳司東京財団政策研究所研究主幹/武蔵野大学工学部環境システム学科/アクアスフィア・水教育研究所

1.水道料金は上昇、格差は拡大

水道の話題として真っ先に挙がるのが料金格差の問題である。水道料金は自治体ごとに設定されるが、全国で高い地域と低い地域とでは約8倍の開きがあり、政治や政策の議論の的になりやすい。しかし、水道料金以外の実際の水道事業の課題やリスクについては、事業者や関係者の間では認識されているものの、一般的な議論の俎上にあがることはほとんどない。

一つ目のリスクは、水道料金収入の減少による水道事業者の経営難である。我が国の人口は減少が続いており、2029年には12000万人を、2053年には1億人を下回ると予想されている。人口減少は水道利用者の減少にほかならないので、当然、料金収入も減少する。あわせて、一人当たりが使用する水の量も、トイレや洗濯機などの節水技術の向上もあって減少してきている。

二つ目のリスクは、水道施設の老朽化による漏水や損壊の増加である。全国の水道管の総延長は約72万キロもあり、この中で、定められた耐用年数を超えている割合(老朽化率)は2006年度に6%だったものが、2018年度には17.6%まで増加している。老朽化が進めば当然、漏水や損壊といった事故が起きやすくなる。2021年に和歌山市で六十谷水管橋が崩落し約6万世帯(約14万人)が6日間断水した事故は記憶に新しい。安定的な水道供給のためには水道施設の更新のペースを上げていく必要があるものの、実際に更新された水道管の割合(更新率)は2006年に0.97%、2018年が0.68%と減少しているのが実態である。

つまり、水道の使用量が減り、人口減少などで水道収入が減少する一方で、施設の老朽化などによって更新コストが増大してきており、その結果として各地の水道料金の格差は広がってきている。

三つ目のリスクは、水道の職員減少と技術力の低下である。水道の安全で安定的な供給を支えているのは水道事業体である。しかし、水道事業に携わる職員数(自治体および民間職員の合計、臨時職員、簡易水道を除く)は、2005年の64,707人から2019年の53,356人と11,351人減少(17.5%)した。職員の中でも、水道を技術的に支えているのは技術職や技能職と呼ばれる職員であり、これらの職員数の減少と技術力の低下が顕在化してきている。

職員不足の問題を解決する方法の一つが水道の管理を民間企業に委託する官民連携であるが、民間事業者においても人材不足が深刻であり離職率も高いため、水道の管理に関する技術蓄積・継承が進んでいない。この人材不足により、水道施設の日常的な点検すらままならない事業体も出てきている。水道に関わる技術者の育成は喫緊の課題である。

2.水道広域化の実態

以上のようなリスクへの対策の一つに、水道の広域化がある。201812月に⽔道法が改正され、都道府県が旗振り役となり水道広域化の推進プランの策定が進められているが、2021年時点で策定済みの都道府県は47中わずか5つである。我々が独自に行った広域化に関する事業体へのヒアリング調査では、「⽇常業務に忙殺され計画を考える余裕がない」、「広域化のメリットがわからない」、「連携してもメリットのない⾃治体が取り残される」、「歴史的な関係性・地域事情に左右される」といった声が聞かれ、広域化には様々な課題や障壁が明らかになってきている。

一方で、広域化後の取り組みにより経営改善に成功している事業体もある。岩手中部水道企業団(以下、岩手企業団)では、2014年に広域化を実施し、広域化後に25の施設を削減、約89億円の投資削減に成功した。また、安易な人事異動を行わず、旧事業体間の技術共有を進めることで人材育成と技術力の向上に成功している。

さらに、北九州市と周辺5市町では、広域連携を前提とせず、関連する事業者が各地の実情を調査し、その成果を持ち寄ることで、適切な広域連携を模索している。このプロセスを通して、⼤規模⾃治体、中⼩規模⾃治体、⼤⼿⺠間企業、地域の中⼩企業のパートナーシップの方向性が議論されている。

3.広域化は何をもたらすか?新たなリスクと可能性

以上のように、広域連携にはさまざまな課題があるものの、一部の事業体では広域化やそのプロセスを通して、地域としての水道のあり方を模索しながら未来に向けた議論や取り組みが進みつつある。

これらの取り組みを通して、新たな課題も見えてきている。一般的に、広域化による経営規模の拡張により経費は節減できると⾔われている。しかし、⼤⼝の発注などでコスト削減は可能であるが、⽔道は設備産業であるため⼀定の材料費、施⼯費(労務費)、維持管理費は当然今後もかかり続ける。さらに、水道を供給する⾯積が広がれば広がるほど、事業者は広⼤な面積を管理しなくてはいけなくなるし、人口減少が進む地域では⽔道の維持が難しくなると想定される。

このような背景において、⼈⼝減少地域に対して市⺠や企業が提供する⼩規模⽔道、独⽴型⽔道技術の導入が注目されつつある。実際に、長野県軽井沢市、岡山県津山市などで、小規模・独立型水道(水道に対して「水点」と呼ぶことにする)の導入事例が出てきている。前者は民間が企画し、住宅ごとに配置されたものであり、後者はさわ水を共有する地域住民によって運営されているものだ。現在の水道法での水道の定義は「給⽔⼈⼝20⼈以上100⼈未満の規模」とされており、これらの新技術は⽔道法の適⽤外となる。よって、その管理や維持は誰がやるのか?何か事故などが起こった場合、誰が責任を負うのか?といった(技術提供者なのか、利用者なのか)、「水点」の運⽤ルールは地域ごとに決めていく必要があるだろう。

また、気候変動は水道事業においても避けては通れない課題であり、豪雨や洪水の増加によって今後も断水や汚濁などの災害は増加することが想定される。その際、広域化による浸水想定区域内の施設の統合や災害を緩和するための水源林の保全は重要な取り組みの一つになってくるだろう。合わせて、気候変動を緩和するための脱炭素の取り組みも、水道事業の重要な課題になってくるだろう。長野県では自然流下で水を送ることを意識した水道設備の配置が計画されている。また、山間にある小さな水道施設は位置エネルギーをもっており、小水力発電の拠点として活用することができる。富山県朝日町では小水力発電で得た収入を使って水道インフラを更新している。人口約250人の笹川地区に発電所を設けて売電し、約3億円かかる簡易水道の更新費用を賄っている。

4.未来に向けた水道事業

最後に、岩手県矢巾町での取り組みを紹介する。矢巾町では、未来世代を想定して、自分達の課題を整理し、未来世代に向けて議論を行うという新たな思考方法が導入されている。例えば、現在の世代の住民からすれば料金は安い方が良いし、お金がかかる施設の更新はできるだけ先送りしたいと思うのが当然である。しかし、料金値下げは水道事業にかけられる予算の縮小に繋がり、それにより水道更新も停滞し、そのツケを払うのは将来世代である。よって、一旦、現世代としての思考をやめて、未来世代になりきってこれからの水道、そしてまちのあり方を議論しようというのが矢巾町の取り組みである。

この取り組みに際し、町の職員はワークショップやファシリテーションの技術を学ぶための研修に積極的に参加して、そこで学んだ技術を水道や町の未来ビジョンの作成に活用している。これまで、水道事業は水道インフラの整備や維持管理が事業の中心と考えられてきたが、未来に向けたビジョンの形成や、水道や水を通したまちや住民の生活を考えるための入口をつくることも、重要な役割と認識していく必要があるだろう。

議論 さらなる課題探求

1.これからの水道を支える住民参加、「水点」

2.水道の平等性と公共性

3.現段階でのまとめ

「未来の水ビジョン」懇話会について

我が国は、これまでの先人たちの不断の努力によって、豊かな水の恵みを享受し、日常生活では水の災いを気にせずにいられるようになった。しかし、近年、グローバルな気候変動による水害や干ばつの激化、高潮リスクの増大、食料需要の増加などが危惧されている。さらには、世界に先駆けて進む少子高齢化によって、森林の荒廃や耕作放棄地の増加、地方における地域コミュニティ衰退や長期的な税収減に伴う公的管理に必要な組織やリソースのひっ迫が顕在化しつつある。

水の恵みや災いに対する備えは、不断の努力によってしか維持できないことは専門家の間では自明であるが、その危機感が政府や地方自治体、政治家、企業、市民といった関係する主体間で共有されているとは言い難い。

そこで「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「水の未来ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有していく。 

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(あいうえお順)

沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)

小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)

黒川純一良(公益社団法人日本河川協会専務理事)

坂本麻衣子(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)

武山絵美(愛媛大学大学院農学研究科)

徳永朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)

橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)

村上道夫(大阪大学感染症総合教育研究拠点)

 

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