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「未来の水ビジョン」懇話会6 「持続可能な水マネジメント−変化する未来の社会と気候の下で−」
画像提供:Getty Images

「未来の水ビジョン」懇話会6 「持続可能な水マネジメント−変化する未来の社会と気候の下で−」

December 23, 2022

R-2022-087

「未来の水ビジョン」懇話会では、水と社会の基礎知識を整理したうえで、将来の持続可能な水マネジメントについて議論を行う。202299日 東京財団政策研究所にて)

1.水の問題は健康だけでなく、社会的な問題
2.飲み水に関わる世界共通の目標、MDGsとSDGs
3.水と社会の基礎知識
4.地獄の沙汰も金か水次第
5.日本の水インフラと国土形成計画
6.水供給分野と気候変動
7.持続可能な社会インフラのあり方とは

Keynote Speech(概要)

沖大幹 東京財団政策研究所研究主幹/東京大学 総長特別参与 大学院工学研究科 教授

1.水の問題は健康だけでなく、社会的な問題

今日は持続可能な水のマネジメントについてお話ししたい。2020年現在も世界で20億人(26%)が安全に管理された飲料水サービスを利用できず、36億人(46%)が安全に管理された衛生施設を利用できていない(UNICEF,WHO)。また、水汲み労働は、多くの社会で女性・子どもの仕事とされるため、水の問題は健康のみならず教育や人材開発、ジェンダーの問題と深く関わっている。

水資源の大切さを伝える際に、「地球上に水はたくさんあるが、そのうち私たちが使える淡水は0.01%ほどしかない。だから水は貴重だ。」と言われるが、実はそれは我々の抱える水の課題の説明にはなっていない。使える割合ではなく、量として人類に行き渡るか、溜まった水ではなく流れる水をいかにマネジメントするかが重要となる。

水は時間的・地理的に偏って存在するので、まさにお金と同じで、世の中にたくさんお金があっても、必要な時に必要な分が自分の手元にないと不十分ということになる。地理的な偏りは水を運べば解決でき、時間的な偏りは水がある時に貯めて管理すれば解決できるが、そのような設備を世界中、均等に整備できていないため、水不足が問題となる。

2.飲み水に関わる世界共通の目標、MDGsとSDGs

水問題解決のため、世界的に定められた目標としてMDGs(ミレニアム開発目標)、SDGs(持続可能な開発目標)がある。SDGsにおいて水に直接かかわるのは「SDG6」(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)だ。特に、ターゲット6.1では、「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する」とされ、MDGsで設定された指標に、30分以内に安全な水にアクセスできるという条件が加わっている。


MDGsの水へのアクセス目標は、5年前倒しで達成された。その理由として、1990年〜2015年の間に、中国、インドを始めとする水へのアクセス課題を抱えた多くの国でGDPが伸びたことが挙げられる。GDPの増加には経済状況だけではなく、ガバナンスの向上も寄与していると考えられるほか、交通、エネルギーといったインフラの整備や簡便な水供給技術の開発、技術へのアクセスの改善など全体的な底上げも関係していると想定される。

3.水と社会の基礎知識

水と社会に関わる基礎知識として以下を挙げたい。ここではすべての解説はしないが、詳しくは参考文献を参照してほしい。

  • 日本は水に恵まれた国か? 
  • 水を使うと何が失われるのか? 
  • 水資源はストックか、フローか? 
  • 水が足りなくなると喉が渇くのか? 
  • 21世紀は水紛争の世紀になるのか? 
  • 水の国際価格はなぜ存在しないのか? 
  • 節水すれば世界の水不足は解消されるのか? 
  • 海水淡水化で水問題はすべて解決できるのか? 
  • 水は循環資源なので永遠に使い続けられるのか? 
  • 仮想水とウォーターフットプリントとは何が違うのか?
  • 空気(CO2)の次は水に課金される時代になるのか? 
  • 循環・再生資源である水がなぜ地球上で枯渇するのか? 

日本は水に恵まれていると言われるが、一人当たりの降水量は世界平均の倍ほどあっても、人口密度が高いために、一人当たりの水資源は世界平均以下である。また、水を使えばエントロピーが失われる。水はフローで考える必要があり、水が足りなくなると喉が乾くのではなく、食糧生産が困難になる。水紛争の世紀と言われるが、明確に水が原因で戦争が始まった例は未だない。

節水だけでは水不足が解消されないため、水問題解決は取り組みが難しい。海水淡水化には、海が近くに必要でありコストもかかるため、すべての解決策にはならない。水は循環資源だが、上手に使うインフラの持続可能性が鍵になる。

4.地獄の沙汰も金か水次第

水は他の物価と比べ、非常に価格が安い。上水道は1t当たり200円、ミネラルウォーターになると20万円と水道水の1000倍になる。ただ、運搬に費用がかかるので重力で運べる範囲で上手く流通させる必要がある。水が足りない場所に水を送って食糧を作るより、水がある場所で生産して食糧を運ぶ方が効率的である。裏を返せば、水がなくてもGDPが高ければ食糧を確保でき、貧しくても水資源があれば、食糧を生産できる。お金も水もない状態では、人が住む国家として成り立たない。

5.日本の水インフラと国土形成計画

日本で不自由なく水を使えるのはインフラ整備の賜物であり、それはここ数十年で実現された。しかし、人口減少により需要が減ると共に維持管理の担い手も減り、設備の老朽化は進んでいる状況である。水分野のみならず日本全体で一体的な国土形成計画が必要となっている。

最新の国土形成計画の中間とりまとめでは、「デジタル田園都市国家構想」と銘打って、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」が謳われているが、現実的ではない。「様々な地域」であれば、成立するかもしれない。一極集中の是正についても、分散で生じる安全保障上のデメリットを同時に考慮する必要がある。

同じとりまとめの中には、「地域社会全体の持続性を重視した国土利用・管理の最適化」という、前述の「全国どこでも〜」とは矛盾した方針、東京・大阪・名古屋をつなぐスーパー・メガリージョンの再構築という表現もあり、「ありたい未来」と「ありそうな未来」がせめぎ合っている状況が読み取れる。

※「国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ」令和47月公表https://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000236.html

6.水供給分野と気候変動

水量、水質などにおいて気候変動の影響が世界的に見られる。現状への緩和・適応策だけではなく、社会の変化やカーボンニュートラルを視野に入れた対策を示す必要がある。例えば、上水道分野では使用エネルギーの低減しか議論されておらず、管路を低炭素素材に転換するといった今後必ず求められる点が見落とされている。カーボンニュートラルが実現した時においても安全で快適に暮らせる国土を実現しなければならない。その技術開発にこそ注力すべきではないか。

治水分野では、雨量の増加に応じた洪水流量の再計算が行われているが、社会の変化を同時に考慮しなくてはいけない。地域ごとに人が増えたり、いなくなったりする状況において、そもそもどのぐらいの計画レベルにするか、どこでリスクを分担して被害を抑えるかを加味する必要がある。

7.持続可能な社会インフラのあり方とは

日本の水リスクは、洪水にせよ、水供給にせよインフラの整備と深く関わっている。人口減少下で持続可能な維持管理をいかに実現するかが大切で、そのためには社会的共通資本が求められる。拡大だけではなく、縮小も計画的に行う必要がある。行政サービス、教育サービス、防災、水、教育、医療、通信、文化サービスのどこをどのように残していくか、30年、50年のスパンで逆線引きをしていく必要がある。

トップダウンではなく、コミュニティベースで妥当な判断をしていかないといけない。それが示されれば、交通、エネルギー、医療等、生活に不可欠だが民間が担っている分野において、安心して投資が継続されるのではないか。

マイノリティへの配慮は必要だが、その声の大きさに惑わされずマジョリティのウェルビーイングに目を向けていく必要性がある。批判もあるがやはり「最大多数の最大幸福」が基本になるだろう。

議論 さらなる課題探求

1.未来の姿を誰がどのように選択するのか?

 

2.国土計画と水ビジョン

 

3.「守るべき」と「守りたい」

 

4.縮小する未来への計画は可能か?

 

5.人の重要性

 

6.現段階でのまとめ

「未来の水ビジョン」懇話会について

我が国は、これまでの先人たちの不断の努力によって、豊かな水の恵みを享受し、日常生活では水の災いを気にせずにいられるようになった。しかし、近年、グローバルな気候変動による水害や干ばつの激化、高潮リスクの増大、食料需要の増加などが危惧されている。さらには、世界に先駆けて進む少子高齢化によって、森林の荒廃や耕作放棄地の増加、地方における地域コミュニティ衰退や長期的な税収減に伴う公的管理に必要な組織やリソースのひっ迫が顕在化しつつある。

水の恵みや災いに対する備えは、不断の努力によってしか維持できないことは専門家の間では自明であるが、その危機感が政府や地方自治体、政治家、企業、市民といった関係する主体間で共有されているとは言い難い。

そこで「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「水の未来ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有していく。

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(五十音順)
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)
黒川純一良(公益社団法人日本河川協会専務理事
坂本麻衣子(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)
武山絵美(愛媛大学大学院農学研究科)
徳永朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
村上道夫(大阪大学感染症総合教育研究拠点)

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