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水道の現在地3「AI?ヒト?将来の水道の担い手を考える」
画像提供:getty images「大型下水道管を調査する水道職員」

水道の現在地3「AI?ヒト?将来の水道の担い手を考える」

January 25, 2022

R-2021-045

コロナ禍で注目された「エッセンシャルワーカー」の存在
2005年から2019年に17.5%減少した水道職員
施設の老朽化が進むなかで点検が重要になるが
情報はヒトの代替手段となるか
災害の多発、断水増加、ヒトの負担増という未来

コロナ禍で注目された「エッセンシャルワーカー」の存在

蛇口の向こうで働く人がいる。今年(2022年)、生田斗真氏が水道職員を演じる映画『渇水』が公開される。1990年に文學界新人賞を受賞し、同年の芥川賞候補にもなった河林満氏の同名小説の実写化で、水道料金滞納者に対応する水道職員の眼を通し、現代社会に蔓延する貧困やネグレクトなどの問題を描き出している。

こうした特別な機会がないと、水道現場で働く人の姿が想像できないほどに、水道水はあたりまえのように家庭の蛇口から流れる。

コロナ禍で注目されたキーワードの1つに「エッセンシャルワーカー」がある。「essential(必要不可欠な)」と「worker(労働者)」を組み合わせた言葉で、人間の生命や暮らしを守り、社会を支えるのに欠かせない仕事に従事する人を指す。医療、福祉(介護・保育)、運輸(交通)・物流、小売・販売、生活(公共)インフラ、1次産業、公務員などが該当する。

本稿のテーマである水道をはじめ、電気・ガス・通信など、日常生活を支えるインフラに携わる人もエッセンシャルワーカーだ。ライフラインは止めることができず、災害などの非常事態でも早期復旧が必要で、緊急性、リスクともに高い。一方で、その重要性に対する認識は十分ではない。そのため待遇面向上に結び付かず、結果として「社会を支える人材」が不足しがちという課題が生じる。

2005年から2019年に17.5%減少した水道職員

まずは水道現場の実態を見ていこう。水道事業に携わる職員数(自治体および民間職員の合計、臨時職員、簡易水道を除く)は、2005年の64,707人から2019年の53,356人と11,351人減少(17.5%)した。自治体職員を見ると2005年の60,405人から2019年の47,067人と13,338人減少(22%)し、一方、民間職員を見ると2005年の4,302人から2019年の6,289人と1,987人増加(46.1%)した [1]

これは地方公務員の削減政策と呼応する。地方公務員数は現在、都道府県と市町村等を合わせて約280万人で、ピークだった1994年の約328万人に対し14.6%減少した。2010年代前半以降は減少傾向に歯止めがかかり近年は微増となっている[2]2000年代を中心とした地方公務員削減の目的は財政の健全化であり、その手段として、①地方自治体が直接担う業務範囲の縮小、②デジタル技術導入による業務効率の改善が行われた。

次に職域別に水道職員数の推移を見ると図1のようになる。

(出所)『水道統計 施設・業務編』(平成17、22、27〜30、令和元年度版/公益社団法人日本水道協会)より著者作成

 

技術職員とは、水道事業に係る配管工事や設備工事等の設計や監督等を行う。一方の技能職員は、軽微な水道配管の漏水修繕など現場における維持管理業務を行う。「技能職員・その他」は2005年に6,707人だったが、2019年には2,699人と4,008人減少した。さらに遡ると1985年には「技能職員・その他」は12,169人であり、2019年までに8割近く減少した。現場の最前線で働く職員が大幅に減ったことになる。

さらに図2を見ると、2019年において、給水人口5万人未満の上水道事業数は881(67.5)で、平均6.9人の職員で運営されている。そのうち技術職、技能職はごくわずかだ。小さな水道事業者は、民間企業に業務委託しながら少人数で主要業務を行う。ある自治体では、水道事業の職員が最近まで1人しかおらず、トラブルが発生するたびに地元業者に電話をかけ、陣頭指揮を執った。その人物は筆者に「8年間、県外に出ていない」と語った。あまりに個人に頼りすぎている。

(出所)『水道統計 施設・業務編』(令和元年/公益社団法人日本水道協会)より著者作成

 

職員の平均年齢は44歳であり、水道技術や経営ノウハウをもった50歳以上の職員が多い。数年以内に退職を迎える。若年層の職員採用も進んでいないため、現在よりもさらに職員数が減少した場合、事業運営に支障をきたす可能性が高い。 

施設の老朽化が進むなかで点検が重要になるが

水道の現在地①」で述べたが、全国に張り巡らされた水道管路は老朽化という深刻な課題を抱える。布設から50年、60年経過した水道管を地道に補修しながら使用している[3]。古くなった設備を使用する場合、点検が重要だ。ところが水道施設の点検の実施状況について、2016年に厚生労働省が全国に約6000ある水道事業を対象に行った調査からは、厳しい実態が浮かび上がった。驚いたことに、水道管路の定期点検を行なっていない事業者は74%にのぼった。

図3 水道施設の点検の実施状況

(出所)第6回新水道ビジョン推進協議会(平成29年3月14日)資料

 

厳しい状況を改善すべく、2018年の水道法改正では「水道事業者等に、点検を含む施設の維持・修繕 を行うことを義務付けることとする。(22条の2)」「水道事業者等に台帳の整備を行うことを義務付けることとする。(第22条の3)」「水道事業者等は、長期的な観点から、水道施設の計画的な更新に努めなければならないこととし、 そのために、水道施設の更新に要する費用を含む収支の見通しを作成し公表するよう努めなければならないこととする。 (22条の4)」と定められた。同時に厚生労働省は「水道施設の点検を含む維持・修繕の実施に関するガイドライン」などを整備した。

しかし、筆者のヒアリングでは、「日々の業務に追われ、点検や台帳整備に手がまわらない」「水道職員が減ったことで、水道事業から専門性の高い技術が失われつつある」という声を多く聞いた。国が水道の持続策を打ち出しても、現場には担い手がいない。 

情報はヒトの代替手段となるか

2000年代の地方公務員削減は、デジタル技術による業務効率改善により成し得たと前述した。今後もさまざまな業種業態でCPS/IoT活用が進んでいく。CPS(Cyber-Physical System)とは、フィジカルシステム(現実世界)で、センサーシステムが収集した情報をサイバー空間でコンピューター技術を活用し解析する。経験や勘ではなく、定量的な分析で、あらゆる産業へ役立てようというもの。IoT(Internet of Things)はモノがセンサーを備えたデバイスとなり、膨大な情報がインターネットを介して伝達されること。 

水道事業でもCPS/IoT活用は段階的に進んでいくだろう。需要予測、配水計画、浄水場間の生産能力の融通、リアルタイムでの水質、水量の把握、漏水の早期確認、更新すべき水道管の選定などが段階的に入り、最終的には、経営管理分野までCPS/IoT活用が進むとされる。

現段階でもデジタル化によってヒトの負担は軽減されている。水源の水質や量、施設の稼働状況、水道管路の敷設場所、地域ごとの利用者の数などをデータベース化し、データをさまざまなアプリで解析する。

デジタル化の1つ目のメリットは、施設の状況をパソコンやタブレットでリアルタイムに把握できること。タブレットで水道関連の情報を共有できるようになると、水道に携わったばかりの職員でも施設や管路のデータがわかり、数年の経験者程度の知見をもつことができる。さらに災害時に応援にやってきた他の水道事業者職員に情報提供すれば、応援給水や復旧作業が行いやすい。

2つ目のメリットは、日々の水運用の改善が可能になること。すべての施設のデータがパソコンで見られ、どの浄水場が一日にどれだけの水をつくっているのか、割合はどのくらいか、年間生産コスト、年間消費電力量はどのくらいかなどがわかる。

3つ目のメリットは、パソコンの画面を見ながら更新計画を立てられること。やがては水道事業データだけでなく、下水道、農業用水、工業用水、電力、ガスなどのすべてのインフラ、気象などのデータと結びつき、地域の水循環を広域で見ることも可能になるだろう。

だが、施設の維持管理にヒトが必要という状況は変わらない。破裂した水道管などを修復する配管工型のロボットはすぐにはできない。不規則な外界と複雑にかかわる仕事をAIがとって代わるには、まだ時間がかかる。また、災害時の事故対応など不測の事態にはヒトの能力が必要だ。AIはビッグデータから客観的な判断するが、その判断をどう活用するかはヒトのやること。そのため地域の水事情を熟知した人材育成が肝となる。 

災害の多発、断水増加、ヒトの負担増という未来 

近年、度重なる自然災害の発生により、様々な形で水道施設が被害を受ける結果となった。そのたびに現場では多大な労力により断水を復旧させている。

 

図4 近年の主な災害と断水戸数

 
(出所)内閣府、厚生労働省、日本水道協会、倉吉市の資料より筆者作成 [4]

 

これまで水道施設の整備にあたっては地震対策を軸に進めてきたが、この10年間を振り返ると豪雨が原因の断水が増えている。厚生労働省が、2018年に、全国の上水道事業及び水道用水供給事業(1,355 事業)を対象に、重要度の高い水道施設(取・導水施設、浄水場、配水場)の災害対応状況について緊急点検を行った[5]。その結果、土砂災害警戒区域に位置していた施設は 2,745か所 (全体の 14%)あり、そのうち、2,577 か所(全体の 13%)は特段の対策が行われていなかった。また、浸水想定区域内に位置する施設は 3,152 か所(全体の 16%)あり、そのうちの2,552 か所(全体の 13%)は特段の対策が行われていなかった。気象庁は、気候変動にともない短時間に激しい雨の降る日が増加すると予測しており、土砂災害や浸水災害も考慮に入れ、総合的な対策を立案する必要があるが、ここでもヒトとカネの問題が重くのしかかる。

公務員の負担度を、市民数に対する公務員数で測るケースがあるが、水道事業の場合、人口減少が進んでも水道職員の負担は減ることはない。水道は基本的に設備産業であり、人が減っても設備を減らさなければ負担は変わらない。上下水道の都道府県ごとの「水道職員1人に対する給水人口」を計算すると、全国平均では「水道職員1人に対する給水人口」は2707人であり、今後人口減少が進むと「水道職員1人に対する給水人口」は減っていく。一方で施設を象徴するものとして水道管に注目すると「水道職員1人に対する管路延長」は20.1kmである。管路延長は人口減少とは関係なく、広域化を図っても変わらない。今後、水道職員数が減ると「水道職員1人に対する管路延長」は伸びていき、ますます負担は増加するだろう。

 

図5 職員1人に対する給水人口と管路延長

(出所)『水道統計 施設・業務編』(令和元年/公益社団法人日本水道協会)より筆者作成

 

つまり、AIが水道事業に入ってきても、ヒトの重要性は変わらない。それゆえ水道法第5条に係る「水道の基盤を強化するための基本的な方針」では、「水道事業等を経営する都道府県や市町村においては、長期的な視野に立って、自ら人材の確保及び育成ができる組織となることが重要」としている。

だが実態はどうか。中規模以上の事業体では2000年代に比べ新規採用は増えているが、中規模以下では増加は見られない。水道事業に働く民間労働者数は増えているが、離職率も高く、技術蓄積・技術継承に結びつかないケースも多い。待遇面の問題もある。「連合・賃金レポート2021」[6]によれば、水道事業関係に働く労働者(公営事業体事業所含む)の2020年の賃金水準は、平均賃金水準指数、個別賃金指数ともほぼ100に近く平均値にあるが、1997年から2020年までの平均賃金上昇率と個別賃金上昇率は低い。同レポートでは水道産業における公営と民間の賃金水準を指数化している。水道産業全体の賃金指数は105.1だが、公民別に見ると、公営110.1、民間92.7である。コスト削減目的で低賃金の民間労働者が水道の現場を担うが、技術蓄積・技術継承は棚上げになっているという実態が透けて見える。「官民連携」さえすれば人材確保・現場の技術水準の継承・改善が可能であるかのような主張は、現実を無視したものともいえる。

経営に欠かせない要素はヒト、モノ、カネ、情報と言われる。本レビューでは「水道の現在地」を「ヒト・モノ・カネ」という視点でまとめてきた。①「進まない耐震化・老朽化対策」はモノの課題であり、②「水道料金はどのように決まるのか。なぜ水道料金は上がるのか」はカネの課題だった。そして3回目はヒトについて考察した。

なぜ「ヒト・モノ・カネ・情報」という順序なのかと言えば、モノ、カネ、情報は、ヒトが動かすことで初めて意味をなすからだ。ヒトを補完するものとして情報があるが、エッセンシャルワーカーの仕事はヒトでないと担えないものが多い。前述したように、災害時の事故対応など不測の事態にはヒトの能力が必要だし、世の中をよりよくしたい、誰かを幸せにしたいなどと意欲をもち、創造力を発揮できるのは人間だからこそできることだ。水道の未来を考えるとき、ヒトの責務は重いし、「社会を支える人材」としてもっと評価されるべきだ。

 

<資料>

[1] 「水道統計 施設・業務編」(平成17年度、22年度、27年度〜30年度、令和元年度/公益社団法人日本水道協会)

[2] 「地方公共団体の総職員数の推移」

(総務省/https://www.soumu.go.jp/main_content/000608426.pdf 2022120日最終閲覧)

[3] 「水道の現状と基盤の強化について」

(厚生労働省/https://www.gyoukaku.go.jp/review/aki/r01tokyo/img/s3_2.pdf 2022112日最終閲覧)

[4] 出所となる資料は下記の通り

[5] 「水道における緊急点検の結果等について(情報提供)」(厚生労働省/平成301214日 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000458928.pdf 2022年1月20日最終閲覧)

[6] 「連合・賃金レポート2021
(日本労働組合総連合会https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/index2022.html#document 2022年112日最終閲覧)

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