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「未来の水ビジョン」懇話会4 「分散型の水供給が鍵を握る未来」
写真提供:Getty Images-水消毒用紫外線ランプ-

「未来の水ビジョン」懇話会4 「分散型の水供給が鍵を握る未来」

November 9, 2022

R-2022-069

4「未来の水ビジョン」懇話会では、分散型の水供給システムの可能性について整理したうえで、将来の水インフラのあり方について議論を行う。20229月9日 東京財団政策研究所にて)

1.飲み水の健康被害のほとんどは微生物
2.集約型、分散型のベストミックスを
3.飲み水の健康被害のほとんどは微生物
4.紫外線発光ダイオード=UV-LEDを備えた分散型施設の有効性
5.分散型の普及のために必要なこと
議論 さらなる課題探求
「未来の水ビジョン」懇話会について

Keynote Speech(概要)

小熊久美子「未来の水ビジョン」プログラム懇話会メンバー/東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻
小熊久美子(撮影:橋本淳司)

1.飲み水の健康被害のほとんどは微生物

私は水質と人の健康との関わり、とくに微生物汚染と水系感染症について研究している。世界的に見ると飲み水が原因で死亡する人は多い。ユニセフとWHOの共同報告書(2019年)[1]によると、22億人が安全に管理された飲み水を使用できず、下痢症疾患で亡くなる子どもは1800人におよぶ。その多くは開発途上国で発生し、汚染された飲み水が原因とされる。また、日本においても飲み水が原因の健康被害のほとんどが微生物を原因とする下痢症だ。

2.集約型、分散型のベストミックスを

こうした問題を解決したいという想いから、私は水、特に飲み水の質を担保するための分散型の処理システムについて研究している。「システム」と呼ぶ理由は、水処理の要素技術を個別に扱うだけではなく、処理した水の「配り方」まで含んだ水供給のしくみを丸ごと研究の対象としているからだ。

水の「配り方」は集約型と分散型に大別できる。集約型は、浄水場で一括処理して水道管路網で配水する。一方、分散型の技術はいくつかバリエーションがあるが、一般的には集落単位、建物単位、蛇口単位で水処理を行う。重要なのは、集約型、分散型のどちらが正解かという二者択一の議論ではなく、双方が補完関係にあると認識し適材適所に配置すること。都市や集落においてベストミックスを模索することだろう。

「持続可能な開発目標(SDGs)」において水に直接かかわるのは「SDG6」(安全な水と衛生施設をすべての人に)だ。2030年までにこの目標を世界中であまねく達成しようとする場合、集約型の大規模水道インフラだけで実現するには無理があるどころか、もはや間に合わないことは明らかであり、分散型を有効に組み合わせることが必須となるだろう。そのためにも、分散型処理は社会を支える基盤=インフラの1つととらえることはできないだろうか。

また、この考え方はとかく途上国の話と認識されがちだが、国内の水道にも適用できると考えている。老朽化や人口減少で維持が難しくなった既存システムと、分散型のシステムを共存させていくことが、1つの解決方法になるのではないか。

3.飲み水の健康被害のほとんどは微生物

私は紫外線を用いた水の消毒技術を研究している。紫外線消毒は、紫外線(主に220-300nm)を生物に照射し、遺伝子に損傷を与えて自己増殖能を奪う技術だ。薬剤を添加せず、水の味や臭いに影響はない。残留性もなく、有害な消毒副生成物を健康影響を及ぼすほどのレベルで生成することもない。幅広い微生物(ウイルス、細菌、原虫)、とりわけ塩素消毒に耐性のあるクリプトスポリジウムなどの原虫に有効であることから、国内外のさまざまな水処理の現場で実装されている。

4.紫外線発光ダイオード=UV-LEDを備えた分散型施設の有効性

なかでも紫外線発光ダイオードUV-LEDは、素子ひとつが3㎜角ほどと小さいため装置設計の自由度が高く、小型で形状の複雑な装置が作りやすい。LEDは従来の紫外線光源(白熱電球のような水銀ランプ)と違って水銀を含まないため、万一破損しても水銀漏れのリスクがなく、廃棄もしやすい点も魅力的だ。

現在、新興国、国内の過疎集落のような水道未普及地域、離島などへの提案・実証実験を行なっている。電力をソーラーパネルでLEDに供給するシステムも実証しており、商用電源のないオフグリッドな地域で水も電力も自律的な水供給システムの確立を目指している。

図1小規模施設にUV-LEDを勧める理由

(出所)小熊氏資料

一方、国内の山間過疎地でも同様の切り口で研究を行なっている。公共水道に接続できない山間地では、住民が運営と維持管理を行う集落水道などが多く、消毒がうまくいかない、あるいは消毒剤の維持が住民にとって大きな負担となっているケースが散見される。日本で健康被害を生じた水道水質事故(1983-2012年)の調査では、140件の健康被害のうち93%130件)は微生物汚染であり、80%超が簡易水道、専用水道、小規模水供給施設など小さな施設で発生している。

そこで、小規模分散型給水システムへのUV-LEDの導入を静岡市の集落で実証してきた。原水中には75%と高い頻繁で大腸菌を検出したが、UV-LED点灯(処理水)時は大腸菌不検出を2年間にわたり維持できた。宮崎県内の某施設でも同様の実証実験を行い有効性が認められ、2022年度内の実装が決まっている。

5.分散型の普及のために必要なこと

「未来の水供給」を考える場合、分散型が鍵だと考える。その場合、想定される未来像と課題は以下にまとめられる。 

1)分散型処理をインフラの一種と社会的に認知すべきではないか(現状は認知されていない)

2)集約型と分散型のベストミックスを都市の特性に応じて決める必要があるのではないか。

3)管路に縛られない自由を得るが、それは自己責任の世界でもある。分散型の活用にともなう責任の境界について社会でコンセンサスを醸成し、どのように分担するか。

4)分散型処理に対し行政は何にどうコミットするのか。

真の課題は技術の導入よりも持続可能な維持管理ではないか。

議論 さらなる課題探求

1.分散型はなぜインフラと認知されていないのか

2.集約型と分散型のベストミックスとは




3.分散型処理に対し行政は何にどうコミットするのか

4.管路に縛られない自由と自己責任の世界


5.現段階でのまとめ

「未来の水ビジョン」懇話会について

我が国は、これまでの先人たちの不断の努力によって、豊かな水の恵みを享受し、日常生活では水の災いを気にせずにいられるようになった。しかし、近年、グローバルな気候変動による水害や干ばつの激化、高潮リスクの増大、食料需要の増加などが危惧されている。さらには、世界に先駆けて進む少子高齢化によって、森林の荒廃や耕作放棄地の増加、地方における地域コミュニティ衰退や長期的な税収減に伴う公的管理に必要な組織やリソースのひっ迫が顕在化しつつある。

水の恵みや災いに対する備えは、不断の努力によってしか維持できないことは専門家の間では自明であるが、その危機感が政府や地方自治体、政治家、企業、市民といった関係する主体間で共有されているとは言い難い。

そこで「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「水の未来ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有していく。

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(五十音順)
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)
黒川純一良(公益社団法人日本河川協会専務理事
坂本麻衣子(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)
武山絵美(愛媛大学大学院農学研究科)
徳永朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
村上道夫(大阪大学感染症総合教育研究拠点)

参考文献

[1]Progress on household drinking water, sanitation and hygiene, 2000-2017
https://data.unicef.org/resources/progress-drinking-water-sanitation-hygiene-2019/?q31cha8921=bpcbiljmj2ltk5s0cmlg

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