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小規模自治体の上下水道と農林地の維持管理:天龍村から学ぶこと
画像提供:Getty Images

小規模自治体の上下水道と農林地の維持管理:天龍村から学ぶこと

September 27, 2023

R-2023-044

1.はじめに
2.上下水道と農林地の現状
3.上下水道と農林地に関する将来予測と対応
4.おわりに

1.はじめに

近年加速的に進む少子高齢化を背景に、上下水道や農林地の維持管理における課題が顕在化している。上下水道施設の老朽化が進む中で、少子高齢化に伴う水需要量の減少は上下水道事業体の収入減少をもたらし、上下水道の維持更新の停滞を招く。また、地方における地域コミュニティの衰退や長期的な税収の減少は、耕作放棄地の増加や森林の荒廃の要因になる。

そこで、今後日本が直面する小規模自治体の上下水道や農林地の維持管理に関する課題への解決に向けた示唆を得るべく、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」メンバー(沖大幹、笹川みちる、中村晋一郎、橋本淳司、村上道夫)は、2023512日と13日に長野県の南端に位置する天龍村を訪問し、ヒアリングを実施した。天龍村は、東西に11.4km、南北に9.9kmあり、その面積の9割以上が山林で構成される。村の真ん中を南北に流れる天竜川とその支流から形成される渓谷の中に集落があり、2023731日時点の人口は1104人、65歳以上の高齢化率は6割を超過し、全国で2番目に高齢化が進む山村である[1][2]2010年から2020年の10年にかけて529人の減少が生じ、2040年の人口は500人を下回ると推測されている[2]。村の役場職員は、村民一人一人の名前と年齢と家族構成が頭にあり、役場職員と村民間で相互に顔の見える関係が築かれている。その中で、長野県の公営企業経営戦略の一環として、代替執行制度(村の名において県による管理や執行を可能にする制度)の導入など、上下水道事業の経営の安定戦略の構築も進む[3]

本稿では、現地でのヒアリング結果も踏まえて、天龍村における上下水道や農林地の維持管理に関する現状と将来予測と対応についてまとめる。

 2.上下水道と農林地の現状

(1)上下水道の現状

天龍村では1995年度から 2003 年度にかけて、大型インフラ事業が相次いだ。JR 飯田線平岡駅併設の総合交流施設「龍泉閣」の建設、村内各所の林道整備、村内全域へのケーブルテレビ敷設の他に下水道の整備事業も行われた。また、2021年度には、膜ろ過の浄水処理施設も導入された。

近年の天龍村の上水道普及率は92%(天龍村提供)、汚水処理人口普及率は87%(下水道普及率67%、浄化槽・コミュニティプラント普及率20%)[4]である。上水道は、天龍簡易水道と5つの簡易給水施設から構成される[5]。近年10年間の水需要量は有効収支量ベースで約3割減少し、料金収入は約2割の減少を示す[5]2022年度の水道特別会計決算は9710万円で、そのうちの29%が使用料及び手数料、20%が繰入金、2%が繰越金、6%が国庫補助金、43%が村債によるものであった。歳出は9573万円で、29%が総務費、50%が維持管理費、21%が公債費であった。同様に、2022年度の下水道特別会計決算は5813万円、そのうちの24%が使用料及び手数料、62%が繰入金、2%が繰越金、11%が村債によるものであった。歳出は5739万円、そのうちの20%が総務費、38%が維持管理費、41%が公債費であった。このように、上下水道の収入のうち、使用料及び手数料によるものは全体の3割未満であり、不足分を村債、繰入金および国庫補助金から賄われている。

現存の施設能力に対して需要量は少ない。たとえば、天龍村中井侍地区では約90人相当の上水道の施設能力に対して実際の需給量は約30人相当である。上下水道の経営的にはダウンサイジングが望ましいが、必ずしも居住状況やコストが見合わない実情がある。財政健全化に向けては、職員定数等の抑制に加え、代替執行制度の活用による簡易水道の更新事業が進められている。具体的には、老朽化した鶯巣地区において簡易水道の工事設計、監督、国への補助金の申請手続き、工事に伴う関係機関との調整などが行われた。

 

 (2)農林地の現状

天龍村では、1960-70年代ごろより、農業に関する開発が進んだ。それまで、高地のため、田に十分な水を賄うことができなかったが、水路が整備されることで稲作が可能となった。また、1950年代ごろには林業も活発化し、植林、伐採、運搬の分業が進んでいた。

現在の水田面積は40ha、畑面積は110ha、森林面積は10224ha(うち、人口林率49%)で、森林が天龍村の総面積の93%を占める[6]。森林の村有林が 6%、私有林が 94%(長野県林業公社等の団体有林14%、個人有林他80%)であり、特に個人有林の割合が高い[6]。この中で、農業も林業も担い手不足が進んでいる。独自販路を開拓する農家や林業家もいる一方で、十分な収入を得ることが困難な状況にある。森林地についても、森林生産活動の停滞や所有者の森林離れや関心の低下により、森林の荒廃、獣害・森林病害虫森林被害の増加、水源林売却に伴う水源地保全の危機といった課題が顕在化しつつある[6]。関係者へのヒアリングによれば、農林地の荒廃を防ぐ意義として、景観としての価値が言及されていた。2002年には、耕作放棄地の管理を目的に村の出資によって公社が設立された。村の運営補助金によって管理が進み、今後公社がますます扱う農地面積は拡大する見込みである。

 

 3.上下水道と農林地に関する将来予測と対応

(1)上下水道に関する将来予測と対応

天龍村による水道事業経営戦略では、少子高齢化の影響に伴う料金収入の減少と老朽化が進む中での施設の維持や回収のために、独立採算での経営が難しいこと、更新費用の削減や有利な補助事業などによる財源確保の必要性が言及されている[5]

このような状況の中で、時宜にかなったダウンサイジングを進めるとともに、場合によっては分散型の上下水処理システムへの転換がメリットとなることもあるというのが筆者の考えである。下水に関しては合併浄化槽の導入が分散型のシステムとして広く認知されるが、近年では、紫外線発光ダイオード=UV-LEDを備えた分散型上水供給システムや上下水処理を一体的に行う分散型システムに関する技術開発も進んでいる[7][8]。今後は、上下水道施設の更新に加えて、分散型システムの選択肢を俎上にあげることに意義があろう。その際には、分散型施設の維持管理技術についての利用者間の共有、責任の所在や行政機関のコミットの範囲などについての議論も並行して行うことが求められる。

(2)農林地に関する将来予測と対応

担い手の減少とともに農林地の維持管理がより難化することが推測される中、農林業に関する後継者の育成に加えて、補助事業などによる財源確保が今後も必要となるであろう。現行の脱炭素に関する事業だけでなく、持続可能な活動を模索することが求められる。一方で、水源地の保全などのように、天龍村外の人々が受ける恩恵もある。景観の整備もまた、国民が求める風景という価値があるならば、必ずしも村民やコミュニティ内の関係者だけが享受するものとも限らない。村内住民と村外住民といった、立場が異なる集団間がもつ相互の関係性の見える化を通じて、互恵関係への理解と強化、その実感が伴うような制度の構築が求められる。

4.おわりに

本稿では、今後顕在化する小規模自治体の上下水道や農林地の維持管理に関する課題への解決に向けた示唆を得るために、天龍村の現況と取り組みを現地でのヒアリングを踏まえて紹介した。小規模自治体における維持管理には、事業経営という観点のみならず、利水や治水、景観といったさまざまな観点から当該自治体外の市民と相互に関係しあう。たとえば、上下水道施設や景観保持を目的とした補助事業においても、当該自治体内外の市民間でどのような分配方法が適切なのかといった議論を重ねる重要性が増すだろう。その際には、異なる立場間に存在する多角的な互恵関係の見える化と共有が議論の前提となる。このような議論の場とその前提となる知見の基盤の構築が求められる。

  

参考文献

[1] 天龍村HP http://www.vill-tenryu.jp/administrative/ (最終閲覧:2023818日)

[2]天龍村(2021)第2期天龍村まち・ひと・しごと創生人口ビジョン http://www.vill-tenryu.jp/wp-content/uploads/2021/03/1f8e60dc0806558e76b7e099dd7f8a7f.pdf(最終閲覧:2023818日)

[3]長野県企業局(2021) 長野県公営企業経営戦略~経営の安定と未来への投資~ https://www.pref.nagano.lg.jp/kigyo/kensei/soshiki/soshiki/kencho/kigyokyoku/sogojoho/documents/keieisennryakuzenbunn.pdf(最終閲覧:2023818日)

[4]長野県(2023)長野県(環境部)プレスリリース  https://www.pref.nagano.lg.jp/seikatsuhaisui/happyou/documents/230822press_besshi.pdf(最終閲覧:2023926日)

[5]天龍村(2017)天龍村営水道事業経営戦略 平成29年度~平成38年度http://www.vill-tenryu.jp/wp-content/uploads/2020/07/suidoukeieisennryaku.pdf(最終閲覧:2023818日)

[6]長野県天龍村(2023)天龍村森林整備計画 http://www.vill-tenryu.jp/wp-content/uploads/2023/03/c55e6f2ef3725a5807929890d15c8ba0.pdf(最終閲覧:2023818日)

[7]東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」(2022)懇話会4「分散型の水供給が鍵を握る未来」https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4100

[8] 東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」(2023)懇話会14「小規模分散型水循環システムで、世界の水危機を解消する」https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4347

 

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