R-2023-124
【動画配信】(YouTubeページへ遷移します)
【開催要旨】
■テーマ:「水みんフラ—水を軸とした社会共通基盤の新戦略—」
■開催日:2024年3月1日(金)17時-19時
■方 法:オンライン・ライブ配信
■登壇者:(敬称略、順不同)
東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科教授)
村上道夫(東京財団政策研究所研究主幹/大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会理事)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科准教授)
研究協力者:未来の水ビジョンプログラム懇話会
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科教授)*
坂本麻衣子(東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授)
武山絵美(愛媛大学大学院農学研究科教授)
徳永朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)
黒川純一良(公益社団法人日本河川協会専務理事)*
西廣淳(国立環境研究所気候変動適応センター副センター長)
*ビデオコメント
★【政策研究】「水みんフラ—水を軸とした社会共通基盤の新戦略—」はこちら
【開催報告】
第1部「提言パート」
日本は「水に恵まれた国」であると多くの人が思っていますが、それは先人がインフラを整備してくれた結果です。利水、治水施設が整備される前は、水系伝染病の感染者や水害での死者が現在よりはるかに多く、先人の努力によって毎日安全な水を得ることができ、日常生活では水の災いを気にせずに過ごせるようになりました。
ですが近年は、インフラの綻びを実感している人も多いでしょう。1年間に、上水道の漏水・破損事故は全国で2万件以上、下水道管路に起因する道路陥没は4000件以上、農業水利施設の突発事故は1000件以上発生しています。地震や水災害などで被災し、長期間の断水や下水道が使用できなくなったという経験をもつ人も多いでしょう。
その一方で、人口減少、それにともなう税収減、水道料金収入の低下などにより、インフラの管理に必要な組織やリソースが脆弱になっています。上下水道、農業水利施設などのインフラの老朽化、森林の荒廃、耕作放棄地の増加などが、インフラの綻びにつながっています。油断していると、日本は「水に恵まれた国」ではなくなってしまうかもしれません。
「未来の水ビジョン」プログラムは、次世代に対する責務として、水と地方創生、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を議論してきました。
最終報告ウェビナーでは、はじめに、沖大幹研究主幹が、提言の背景および骨子説明を行いました。
それは、上下水道、農業水利施設、治水施設など従来のインフラだけではなく、自然生態系や人為的な生態系、そして人や組織が組み合わされたシステム全体が、安全な水の安定供給を支えていることを共有し、それらを「水みんフラ」(「みんなの水インフラ」)と呼んで、社会全体で支えていこう、というものです。
また、多くの人と「水みんフラ」について共有するツール「水みんフラ曼荼羅」も公開しました。
「水みんフラ」曼陀羅ポスターのDLはこちら(PDF:1.9MB)
続いて、「集約型と分散型の上下水道システム」(村上道夫研究主幹)、「グリーンインフラを活用したコミュニティでの水管理」(笹川みちる主席研究員)、「水みんフラとしての農地」、「水みんフラとしての地下水」(橋本淳司研究主幹)、「流域治水と水みんフラ」(中村晋一郎主席研究員)という5つの提言の説明を行い、懇話会メンバーから関連分野についてそれぞれコメントがありました。
第2部「コミュニケーションパート」
双方向コミュニケーションが可能なWebサービス「slido」を活用し、参加者から広く質問や意見を受け付け、第1部の発表者5名に、懇話会メンバーの坂本麻衣子、武山絵美、徳永朋祥、西廣淳を加え議論を行いました。
「小規模分散型の水みんフラを能登半島地震被災地の復興に組み込んでいくことができないか」、「水みんフラを公・共・私がどのように金銭的に負担していくべきか」、「自然災害が多発するなかでも、河川沿いに新しい住宅ができるような状況が続いている。土地利用を抜本的に変えていくことが必要と思うがどうだろうか」、「地下水涵養の取り組みの成果、可視化はどのような方法があり、どのような評価か」などの質問が「slido」で多くの参加者に支持され、これらを中心に議論を行いました。
最後に沖研究主幹が、「みんフラによって私たちの暮らしが支えられていることを意識してほしい。前の世代から受け継いだみんフラを、少し良くして次の世代に渡すことが大切だ」と結びました。
【参加者の反応】
249名の参加があり、131名がアンケートに回答、うち93%が「内容に満足(大変満足・満足)」という結果でした。ウェビナーを視聴した感想の自由記述には、
「現代の日本において、自分たち市民が治水や水利用の計画策定にもっと積極的に参画していく必要性が高まっていると感じることができた。また、計画策定に当たっては行政が主導するだけではなく、水循環の影響を予測できる専門家の知見や、調査結果を踏まえて生物多様性を保全する団体、多くの水資源を必要とする企業など、異なる立場の人々の意見や要求を聞き、多方面の納得をもとに議論をまとめるファシリテーターの養成も重要となるのではないかと考えた。(抜粋)」(20代)
「水みんフラが、これまでの研究や政策をつないで持続可能な水利用につながることを良く理解できました。自分でも貢献できることを探していきたいと思います。(抜粋)」(30代)
「みんフラという言葉は初めて知りましたが、知らない人と知識共有していくには良いと思いました。」(40代)
「水道事業の従事者としても知っておくべき内容だと思いました。」(50代)
「水インフラを考える基本に、土地利用=地域特性があることを強く意識しました。」(60代)
「水みんフラではもっとグローバルな視点で、本当に省庁間の垣根を取っ払うぐらいの大胆な発想に基づく提案が欲しいと思いました。」(70代以上)
など、熱心かつ丁寧なものが多く、年齢、立場、居住地、興味関心の異なる多様な参加者が「水みんフラ」について理解を深め、個々の生活や地域のあり方を、真摯に考える機会になりました。
【「未来の水ビジョン」プログラムについて】
「未来の水ビジョン(日本の水をめぐる実態の現状分析と未来ビジョンの形成ならびに水を通じた持続可能な地域の構築に向けた政策提言に関する研究)」